ラジオで被災者と震美術に想いを寄せて

震美術という「表現」の発見

そして、その後、中日新聞の夕刊に掲載された記事にハッとさせられた。それは、3月15日に掲載された「3・11後の美術表現 風化超えて後世へ」というタイトルで東日本大震災後7年目を迎えたことを期に特集されたものである。取材を受けた方が、椹木野衣(さわらぎ のい)さん。美術評論家である。彼は、『震美術論』を著し、そこで「自然災害が多発する日本列島での美術」を考察した。

その記事について引用しつつ紹介しよう。人間の力ではどうしようもない悲劇に襲われた時、表現が生まれる。自然への畏怖、慰霊や鎮魂などのため。それは近代以降の関東大震災でもそうだし、阪神・淡路大震災でも、東日本大震災でもそうだ。たとえば、大ヒットした映画「君の名は。」と「シン・ゴジラ」は、ともに震災や原発事故が織り込まれている。

そうだ、愛知県で2010年から定期開催となっている、あいちトリエンナーレでは、その第2回目、2013年はテーマとして「揺れる大地 – われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活」が選ばれた。芸術監督が五十嵐太郎氏(東北大学大学院工学研究科教授)であったから、それは当然の流れであった。こういった試みや営みから表現が育まれ、他に波及していくのであろう。そこに価値があるように思う。

愛知県名古屋市では、あの日震度3程度の揺れを感じただけ。その後メディアから流れる映像と活字で震災の甚大さを知った。物理的距離から、被災地から離れている人々には自分の体験でないから時間が経つにつれ、その記憶はますます薄れてきてしまうであろうし、当事者であっても生々しい記憶は思い出したくないということもあるだろう。そうやって、人の記憶は風化してしまう。

けれども、当事者であろうとなかろうと、その両者をつないでいくのは表現しかない。美術でも小説でも歌(詩歌)でも、いったん表現になって浸透すれば世代を超えて受け継ぐことができる。前出の椹木野衣さんはそういう考えを示し、今後の作品が出てくることを期待している、という。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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