「ブロックチェーン」と「印鑑文化」の仁義なき戦い

これからの日本は人口減少時代の中で、生産性を上げていかなければならない。そう考えると、ハンコがたくさん押された文書をもらったり保管したりすること自体が非効率であり、こうした台帳の類は早く電子化してくれないかと、経営者として切に思う。

ところが、残念ながら、そうはならないと見ている。日本で印鑑が活躍する領域は、実は既得権益に支配されていることが多く、おいそれと電子化されないだろうからだ。冒頭で紹介した公証役場はその典型で、元裁判官や元検察官のお偉いさんたちは1件5万円の認証手数料を簡単に値下げするわけがない。

病院の処方せんも、わざわざ紙にハンコを押してもらって薬局に持ってかなくても、メールやファイル共有で一瞬で飛ばせば、時間短縮になるし、紛失の恐れもなくなる。さらに薬局も全自動ロボット化すれば、薬の取り違えなどの事故も無くなる。薬局から宅配便で送ってもらえたら長時間待たなくても良くなり、忙しい人にとって貴重な時間の節約にもなるだろう。

AI社会の到来が近いと言われながら、実はこのような、すでにある社会の仕組みや既得権益との兼ね合いから、先進テクノロジーが適切に使われないであろう場面は、日本社会の至る所にあるだろう。もちろん、ハンコの世界で生きている人たちの職業を安易に奪うわけにもいかない。

だからといって、イノベーションが起きない経済社会には、進化も発展もない。私たちはこの問題を先に解いておかないと、本格的なAI時代が絵空事に終わってしまう。テクノロジーによる効率化か、旧来の伝統と雇用を守るやり方か。私たちは二者択一を迫られている。

世界でもこれだけ印鑑が普及しているのは日本、中国、韓国、台湾くらいのもので、ブロックチェーンの技術者たちは印鑑文化などお構いなしにテクノロジーの向上のため切磋琢磨している。日本はどちらの方向に向かうのだろうか。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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