書評『創発型責任経営―新しいつながりの経営モデル』

「変える」と言っても企業組織全体を、社会的課題を解決するレスポンシビリティ型の組織に変えるのではなく、営利目的のアカウンタビリティ型の組織とバランスをもって社内に併存させ、前者は後者のリソースや社内制度を効率的に活用するのである。

もちろん、これらの主張は理想的、非現実的という批判があろうが、まずは自身がアカウンタビリティの発想に束縛されていないか確認した上で問うべきであろう。

冒頭の通り、社会的課題に問題意識を持つ、市民感覚を伴った若い世代が育っているので、本書で提唱する理論や実践は、彼ら/彼女らの「志」を受け止めその活動を後押しするに違いない。

それだけではない。創発的責任経営が企業のスタンダードな経営スタイルとなったその時、企業は営利目的の組織体から、国や地方自治体、NGO等と同等の社会を改善・変革していく一人前の行為体としても社会から認知される可能性を秘める。

社会貢献に興味を持つ若者や社会人には必読の一冊である。

文・甲賀聖士 昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員

1990年明治学院大学国際学部卒。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科、早稲田大学大学院社会科学研究科に学ぶ。国際政治学修士。専門は平和研究・人間の安全保障研究。企業やそこで働く人々、女性もグローバル社会の重要なアクターと捉え、その行動が平和や社会的価値の創出に貢献する可能性を探る。主な論文に「平和の探求―平和の発展と浸透の視点から」、「性役割意識と社会貢献意識を結ぶ『媒介意識』の仮説検証 ―就労前の女子大学生における2つの意識の関係性分析―」等。日系企業で事業管理、安全保障輸出管理、J-SOX、CSR等にも従事。

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キーワード: #CSR

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