原田勝広の視点焦点:地域をおこせ企業人

スタート時点で、参加したのは17自治体、22企業でしたが、2019年度には65自治体に95の企業から社員が半年~3年間、派遣されました。

具体的な事例としては以下のものがあります。

・ANA総合研究所が社員を山形県酒田市に派遣。東京オリンピック・パラリンピックのニュージーランドホストタウン認定や、県とヤマト運輸やANALCARGOとの貨物連携協定締結、ふるさと納税を活用した物産振興などに関わりました。

・同じくANA総合研究所からは岐阜県美濃加茂市にもひとり派遣され、CA(キャビンアテンダント)として培った「おもてなし」のノウハウを活用して市役所職員などに接遇セミナーを実施したほか、特産品の「堂上蜂屋柿」がANAの機内食に採用されました。またANAの人脈を生かして長良川鉄道観光列車での婚活ツアー等の企画を成功させました。

・ベネッセコーポレーションの社員は岡山県和気町で、子育て世代の移住促進や学校及び学校外教育の充実に取り組みました。移住者の急増、公営塾、オンライン英会話の参加者が多数に上るなどの成果がありました。

・ジャルセールスから佐賀県伊万里市に派遣された社員は、伊万里焼、伊万里牛のブランド化を目指し、JALのチャンネルを活用した施策を展開しました。JAL機関誌でのPRによる観光客の増加にも貢献しました。

地域おこし企業人の事業を推進している総務省地域自立応援課では「企業の専門性を生かして地方への動きを作り出そうという事業だが、うまくいっており、2020年度も順調に増加の見通しだ。これまでの事例では観光関係が多い。560万円に自主財源を積み増して、よりニーズに合った企業人材を求める自治体もある。課題としてはマッチング。自治体が必ずしも都市圏の企業に詳しいわけでもないので、欲しい人材があったとしてもどういう企業にアプローチしたらいいかわからない。このため、総務省では希望リストをつくり、経産省など情報を持っている関係部署と連携してマッチングを効率的に行うようにしている」と話しています。

そしてコロナ禍です。ただ支援してもらうだけの立場だった地方は、豊かな自然と広い空間、農林水産業、それを支える人々という資産が前向きに見直され、積極的に再発見されている時代です。コロナ禍で仕事が減った企業が他社へ出向させる動きがあります。こうした企業の優秀な人材を地方へ送り込んだらどうでしょう。総務省では「そうした企業から本事業への問い合わせはあるが、実際に企業人としての参加が増えるかどうかはわからない」と慎重です。

コロナ禍は長期化が必至。いま外部へ従業員を出向させたいと考えている企業は是非、この制度を活用してほしいところです。都会から地方へ人の流れを本気でつくるチャンスです。   (完)

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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