手話通訳者が配置されている病院が少ない理由の1つとして、病院が手話通訳者を配置しても、公的補助や診療報酬の加算などの通訳の財源がなく経営的に見合わないことが挙げられます。
本調査でも、ほとんどの病院が独自の経費で手話通訳者を配置・運営しており、公的補助などの財源などは確認されませんでした。
一方、確認できた分だけでも、2019年度の病院内の総通訳件数は2万6411件(22病院)、総対応のべ人数は7265人(9病院)もありました。これだけの件数の手話通訳が公的補助のない中で運営されているため、病院側の負担が大きいことが容易に推測できます。ここに公的な財政支援が必要とされている理由があります。
また、人件費の面からも病院内手話通訳者は正規雇用として採用されないケースがほとんどです。身分が不安定なため、後進が増えないという課題もあります。
手話による医療通訳育成カリキュラムがまだない
2つめの理由として、医療という専門分野における手話通訳者を育成するカリキュラムが存在していないことが挙げられます。
外国人医療については、厚生労働省が2013年に医療通訳育成カリキュラム基準を策定し、医療通訳テキストの作成や教育が様々な場所で始まっています。しかし、手話による医療通訳育成カリキュラム基準はまだありません。医療分野で求められる専門的な知識や通訳技能の習得・向上は、ほぼ病院内手話通訳者の自己努力に委ねられているのが現状です。
特に、医療・福祉に関する免許や資格を有する者を除いて、医療に関する基礎知識や、医療の専門性の有無を尋ねた質問では、ほとんどの病院内手話通訳者が「なし」と回答しています。
こうした状況を背景に、2019年度から筑波技術大学が医療分野における手話言語通訳者育成カリキュラムの検討を開始しています。今後の策定が待たれます。