オイスカは現地入りしてすぐに現地を調査しました。わかったことは、海抜ゼロ㍍ではクロマツは地中深くに根を張る深根性のはずなのに根が下に伸びていません。円盤のような浅い根のため簡単に倒れこれをさらして「根返り」をおこしていました。

しかし、高さ1㍍ほどの土がある場所ではここに根を張りしっかり立って残っていました。盛り土をすれば問題はなく、クロマツは日差し、乾燥に強く、耐塩性もあるので、海岸林にぴったりなのです。

オイスカの努力が実り、地元に受け入れられる日が来ました。播種や収穫など農作業の節目に催すホルモン焼の宴会「とんちゃん」に招かれたのです。「俺たち、お前らを認めるから」。荒い言葉でしたが笑顔に、温かい心情があふれていました。プロジェクトの構想から半年がたっていました。

10年でここまで成長した海岸林 (オイスカ提供)

挫折もありましたが、苦しい時には不思議と救世主が現れる幸運にも恵まれ、プロジェクトは軌道に乗ったのです。苗木をつくる地元の人々の「名取市海岸林再生の会」と、これを取り巻くボランティアのひとたち。企業も、首都圏などから三菱UFJニコス、ニコン、第一三共、マルエツ労組、埼玉トヨペット、ANAホールディングスなどの社員が駆け付けてくれました。

キーワードは「地元」と「若者」

もちろん地元も盛り上がりました。名取北高校など若者が駆け付けてくれ勇気づけられました。2014年4月に初の植え付け。以来、10年の節目のこの春まで毎年、続けてきました。

本の筆者、小林さんは作業を手伝いながら、このプロジェクトを長い目で見ています。

「海岸林は防風、防砂、防塩だけでなく、高潮、津波の勢いを弱め、住宅や農作物を守ってくれる。住民が津波から逃げる時間を稼いでもくれる。松は植えたが、これで終わりではない。間伐などの手入れをしながら20年、30年と守っていくことが大切です。そういう意味では、完了はないのです。このプロジェクトが本当の意味で成功するかどうかのキーワードは地元と若者だと思う」

その通りでしょう。

「苗を育てるのは孫といっしょ」そんな地元の人の言葉が印象に残りました。
コンクリートと森を組み合わせた「緑の防潮堤」が宮城県岩沼市、福島県南相馬市など東北だけでなく、南海トラフへの備えが必要な高知県や三重県で小規模ながら建設が進んでいるといいます。海岸林の力を生かしたプロジェクトが、もっともっと、日本全国に広がってほしいものです。


◆原田勝広:オルタナ論説委員。日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門は国連、CSR, ESG・SDGs論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』など多数。

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