台湾の巨大半導体メーカーTSMCは、委託元アップルのカーボンニュートラル政策に対応するため、再生エネ100%を目指す企業連合「RE100」に加盟した。デンマークの洋上風力発電大手オーステッドから20年間、電力を購入する契約を交わした。しかしこの契約には、再生可能エネルギーの開発効果をTMSCが独占する懸念がある。一方で、同社には台湾海峡における中国との軍事的緊張の高まりに伴う地政学的リスクもある。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)

マーク・リュー 会長兼ESG運営委員会委員長
出所:TSMC 2020 Corporate Social Responsibility Report

TSMCは、台湾積体電路製造(台湾セミコンダクタ―・マニュファクチャリング・カンパニー)を指し、半導体の受託製造(ファウンドリー)では世界最大手だ。

TSMCは7月26日(6月8日からCOVID-19の影響で延期)株主総会を開いた。

2020年の連結売上高は455 億 1000 万ドル(約5兆円)(前年比131%)、純利益は176 億ドル(約1兆9360億円)(前年比158%)であった。

同社は、好調な業績の反面、再生エネルギー括購入に対する懸念や地政学的リスクを抱える。

■ファンドリーNO.1企業のTSMC

同社はアップル、アマゾンなどアメリカ企業を中心に、約500社の顧客を擁する。

売上高は、インテル、サムスン電子(共に総合メーカー)についで第3位だが、ファウンドリ市場のシェアは54%を占め、第1位である。

1987年に創設された同社は、2000年代以降、半導体産業において従来垂直的に統合されていた生産工程が細分化され、海外で生産される潮流(フラグメンテーション)により急速な成長を遂げた。

■環境保護を掲げる

半導体製造では微細化進むほど生産で大量の電力と水を消費、温暖化ガス排出も増加する。

その為「環境の持続可能性を促進し、世界クラスの環境保護とエネルギー資源保護のベンチマーク企業になる」とのヴィジョンのもと「環境保護政策」を掲げている。

「エネルギー、水、その他の資源の利用効率を追求し、廃棄物の削減と汚染防止に積​​極的に投資する」「製品のライフサイクルにおける環境への影響を低減するために、利害関係者とコミュニケーションし、協力する」と示している。

■アップルに対応した再生可能エネルギー購入

TSMCは、アップルの「2030年カーボンニュートラル」要請に応えるべく、「2050年までに再生可能エネルギー利用を100%に引き上げる」と約束し、2020年7月半導体事業会社で初めて、事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる「RE(リニューアブル・エナジー)100」に加盟した。

また同年、台湾政府の脱炭素政策でデンマークのグリーンエネルギー企業オーステッドが台湾海峡に建設する920メガワット(MW)の洋上風力発電所の4設備の内2つの設備の20年間の全出力を一括購入する契約に署名し、アップルの要請に対応した。

ただしこの契約は、取引価格が非公表でTSMCのように圧倒的な資金力を誇る大企業との売買により、取引価格に市場原理が働かないとすると、多くの人が利益を享受すべきという再生可能エネルギーの開発理念とかけ離れるおそれがある。

日本の風力発電事業は、「市場の拡大によるコスト削減効果が出しにくい」「日本の厳しい気象環境に対応する技術開発が課題」等の理由で、三菱重工業(デンマークのヴェスタスと合弁会社設立)、日本製鋼所、日立製作所(独エネルコンと提携)は事業から撤退しており、台湾政府の政策に応えられなかった。

また環境問題と併せてTSMCには、米中対立の先鋭化と台湾海峡における軍事的緊張の高まりに伴い、工場が中国の目と鼻の先にある台湾に集中していることへの地政学上の懸念がある。

マーク・リュー 会長はアニュアルレポート2020「株主の皆様へ」で2020年を「世界的なCOVID-19パンデミックと地政学的緊張によってもたらされた激動の年」と強調した。

2021年もCOVID-19の再流行で株主総会が延期になるなど激動の年は続いている。