『競争戦略論』などを執筆した、ハーバード大学経営大学院教授のマイケル・E・ポーターなどにより、2011年頃、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)に代わる新しい概念として提唱されたのが、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)と呼ばれるコンセプトです。企業活動が社会や環境に与える影響に対して責任を持って対応するCSRがコンプライアンス(法令遵守)という「守りの対応」であるのに対し、CSVは社会と企業において共通する価値の創造を通して、社会的な課題の解決と企業の競争力を同時に実現する「攻めの対応」を指します。(NPO法人インフォメーションギャップバスター理事長=伊藤芳浩)

教育分野におけるCSVの実践例として、障がいをもつ子どもを対象にしたバリアフリー教育や、開発途上国に対する技術教育や衛生啓発に取り組んでいる企業が数社存在しているものの、環境・エシカル・サプライチェーンなどの取り組みと比べて少ない印象を筆者は持っています。今回は、教育の中でも最近注目されてきている「インクルーシブ教育」について取り上げます。

■インクルーシブ教育とは

インクルーシブとは「仲間外れにしない」「みんな一緒に」という意味があり、それを実現するためには、コミュニティのメンバー(企業であれば、管理職や従業員)に多様性を受け入れる意識を持ってもらう必要があります。

多様性を受け入れる土壌・風土があってこそ、多様な人材が、それぞれのもつ価値や能力を十分に発揮できるようになります。このインクルーシブは、企業の場合、ダイバーシティ(年齢や性別、障がいの有無、人種などにかかわらず、さまざまな人々が社会や組織に参加する機会を得ることを目指す考え方)とセットで取り組むことが多くあります。

インクルーシブ教育は1990年代にアメリカやカナダを中心に広がりはじめました。1994年には、スペインと国連教育科学文化機関(ユネスコ)が開催した「特別ニーズ教育世界会議:アクセスと質」において「サラマンカ声明」が採択され、特別なニーズ教育における原則、政策、実践に関する内容が取り上げられました。

「特別なニーズ」とは、インクルーシブ教育における個々への配慮に該当します。このサラマンカ声明によってインクルーシブ教育のあり方が提示され、世界的な認知が高まりました。

そして、2006年には国連総会で「障害者の権利に関する条約」が採択され、その中では、インクルーシブ教育についての言及があり、普及の契機となりました。日本はこの条約に2007年に署名、2014年に批准しており、以降、文部科学省が中心となってインクルーシブ教育に取り組んでいます。

「インクルーシブ教育」には、障がいがない子どもが障がいなどを含む「多様性を理解するための教育」と、障がいがある子どもが、障がいがない子どもと対等に教育を受けられるように様々な配慮をする「多様性を受け入れるための教育」の2つがあります。それぞれについての現状の課題について述べます。

■多様性を「理解」するための教育

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