ちっちゃい駐車場、ありがとう

 実際に始めてみて意外なことがわかった。とにかく儲かるのである。ほとんど空いている時がない。入庫してもすぐ出て行ってくれる車が多いのだ。20分で200円だから1時間でよくても600円だと計算していたが、回転率があがり、実際には1時間で1,000円を超えることも珍しくなかった。しかも、夜中過ぎまで客があるから、1台分の駐車場で1日に1万円を超す日もある。月にすると合計で20万円近い。3台分で55万円を超える。まさに金のなる木だ。
 当初は、時給600円ね、3台で1,800円ぽっち、と冷笑していた銀行の知り合いも、55万円と聞いて言葉を失った。
「えーっ、本当に?豪華なタワーマンションの家賃並みじゃないの」
 守衛さんのおかげで料金踏み倒し駐車もなく、管理費や照明の電気代なども大してかからない。
 嘘みたいな本当の話である。これが真知バアの遺産として私たち3人の孫に残された。真知バアが住んでいた自宅を売ったお金は親戚に配られ、そこから相続税も払われたので、私たちの負担はなかった。
「年間700万円近い収入があるのだから、お父さんがいるのと同じだね」いつも妹がはしゃぐのを見て母も目を細める。そして、必ずこう付け加える。「お義母様の機転と才覚もあるけど、守衛さんやお隣さん、散歩仲間なんかに助けてもらったおかげなのよ」
 自宅近くに障がい者施設があり、真知バアはそこに通っている子どもの送迎車をよく自宅の庭に止めさせてあげたそうだ。亡くなった病室に飾ってあったガーベラは、その子が何日か前に見舞いに持って来てくれたものだった。
 ことし無事に大学を卒業した私は社会人として働き始めた。給料はまだ駐車場に負けるけど、充実している。
 遺言の中に「人はひとりでは生きていけない。人の縁を大切に」と書いてあった。私は折に触れ、それを思い出す。真知バアの生き方が好きだ。   (完)

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希代 準郎

きだい・じゅんろう 作家。日常に潜む闇と、そこに展開する不安と共感の異境の世界を独自の文体で表現しているショートショートの新たな担い手。この短編小説の連載では、現代の様々な社会的課題に着目、そこにかかわる群像を通して生きる意味、生と死を考える。

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