加熱する「株主アクティビズム」、企業は変わるか

【連載】:ESGアクティビズム最前線(2)

2022年、株主アクティビズムは更に熱を帯びる――。世界各地の資産運用会社や非営利団体のトップたちから聞かれる言葉だ。世界共通で活発化の傾向が続くことが予想される株主アクティビズムにはどのような役割が期待されているだろうか。(松木 耕)

“Climate March 21/09/14”, Garry Knight

「企業と対話する唯一の方法だ」と語るのは、オランダに拠点を置く環境NGOの Follow This 創設者のマーク・バン・バール氏。Follow This は石油企業に投資する個人株主らを「グリーンな株主」として登録する。

8000人以上の株主と連携し、株主代表として英蘭系のロイヤル・ダッチ・シェルや米シェブロンなど石油大手に温室効果ガスの排出量削減を求めている。

バン・バール氏は元米副大統領のアル・ゴア氏の『不都合な真実』を読んだことをきっかけに営業の仕事を辞し、環境ジャーナリストに転身。しかし「石油企業たちは政府・消費者・ジャーナリストの声に耳を傾けない。だが株主の言うことだけは聞く」と結論づけ、試行錯誤の末Follow Thisの創設に至ったという。

今年5月、Follow This が米・シェブロンに提出した温室効果ガス排出量の削減目標の開示を求めた株主提案は6割超の株主の賛同を得て可決された。同社は10月、対応策として2028年までに排出量を5%削減する方針を発表した。

しかし、バン・バール氏は「申し訳程度の目標でがっかり。2030年までに40%の削減が必要。今後も働きかけを続ける」と話す。

「物言う株主」として知られる伝統的アクティビストファンドもエネルギー業界で存在感を放つ。

10月下旬、米・サードポイントがロイヤル・ダッチ・シェルに対して化石燃料を扱う部門と再生可能エネルギーに特化する部門へ分割することを求めた、と欧米メディアが報じた。現金獲得と脱炭素への投資を組み合わせることが提案内容で、市場からも石油企業に「次世代のエネルギー企業」へ変身を求める声が大きくなっていることが伺える。

いっぽう株主アクティビズムに厳しい見方をするのが、世界最大の資産運用会社・ブラックロックのサステナブル投資部門でCIO(最高投資責任者)を務めたタリク・ファンシー氏だ。

ファンシー氏は自身の職務内容を振り返り「ESG投資は欺瞞だ」という内容の告発を公に発信。大きな議論を巻き起こしている。同氏は「企業の本業そのものが社会に悪影響をもたらす場合、株主アクティビズムの役割は限定的なもの。気候変動問題は各国政府の対策なくして解決できない」との見解を示す。

ある環境NGOの幹部からは「本来、企業との対話をリードすべきなのは我々ではなく大口の投資家ではないか」との本音も聞こえる。ESGの実践で論点となる気候変動や人権、職場の多様性などは人類共通の課題だ。企業と株主の対話深化とともに、各ステークホルダーによる勇気ある意思表示が求められるようになるだろう。

株式会社 Proxy Watcher 代表取締役。株主が企業に変革を求める「株主アクティビズム」の最前線を取材・発信(Twitter: @Proxy_watcher)。資産運用会社や非営利団体と日本企業の対話をサポート。上場企業向けにESGやIRに関するコンサルティングも実施。元日本経済新聞・記者(企業財務やアクティビストファンドの取材などを経験)。

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