「サステナビリティ領域」が大変動期に入った。ESGのE(環境)では、「2030年に温室効果ガス46%削減」の政府目標が産業界を突き動かす。S(人権)の領域では、企業の「人権リスク」が至る所で噴出し始めた。G(ガバナンス)改革は待ったなしだ。2022年に何が起きるか、メガトレンドを追った。(オルタナ編集長・森 摂、副編集長・吉田 広子、山口 勉、オルタナS編集長・池田 真隆、オルタナ編集部・長濱 慎)

オルタナ編集部が選んだ2022年のサステナビリティメガトレンド

サステナビリティのメガトレンドを把握するために、「なぜいまサステナビリティなのか」「なぜSDGsなのか」を改めて振り返りたい。

故アナン氏の「4つの贈り物」

「サステナブル・ディベロップメント(持続可能な開発)」という言葉を初めて公式に取り上げたのは1987年4月、国連ブルントラント委員会が東京で発表した報告書「私たち共通の未来」だった。

その後のサステナビリティを巡る動きのほとんどは、2018年に亡くなったコフィ・アナン第7代国連事務総長に遡(さかのぼ)れる(下図参照)。

アナン氏は1999年1月のダボス会議で、並みいるグローバル企業の経営者たちに次のように呼び掛けた。

「皆さんにお願いしたいのは、皆さんの企業やネットワークを使って、世界の社会課題解決に取り組み、支援し、それを皆さんのコア・バリューにすることです」

1980年代から急速に進んだ経済のグローバル化は、その多くを開発途上国の産品に依存する。コーヒー豆、カカオ豆、バナナ、紅茶、天然ゴム、パーム油、綿花、紛争鉱物。

途上国では、児童労働や強制労働問題が今も深刻だ。ダボス会議でのアナン氏の呼び掛けを契機に、MDGs(ミレニアル開発目標、SDGsの前身)と、その実践組織である国連グローバル・コンパクト(UNGC)が2000年に生まれた。グローバル・コンパクトは2021年11月末現在、世界各国から企業や大学、非営利組織など1万9千団体以上が加盟した。

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投資家・市民が企業を動かす

気候変動問題は、2021年にノーベル物理学賞を受賞した真鍋叔郎博士が指摘していた通り、1960年代から研究者の間で問題になっていた。

その後、ブラジル・リオデジャネイロで1992年に開いた「国連地球サミット」で気候変動枠組条約と生物多様性条約を採択した。2021年10─11月に英グラスゴーで開いたCOP26や、21年と22年に中国・昆明で開く生物多様性条約COP15の名称にある「COP」(カンファレンス・オブ・パーティーズ)とは、条約の締約国会議という意味だ。

ESGの概念はPRIが生んだ

「ESG」という言葉や概念を生み出したのは、アナン氏が提唱した国連責任投資原則(PRI)だ。PRIは2006年に退任したアナン氏にとって最後の仕事だった。日本では2015年9月28日、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名したことで、GPIFから年金運用の委託を受ける銀行や証券会社に一気に広がった。

その前年の2014年には投資家の基本原則である「スチュワードシップ・コード」が、2015年6月には「コーポレートガバナンス・コード」が日本でも生まれた。

アナン氏を中心にした国連の動きをサポートするのがWWF(世界自然保護基金)やグリーンピースなどの国際NGOである。彼ら彼女らはCOPやサミット(先進国首脳会議)に正式なオブザーバーとして参加し、影響力を行使する。

有名な「パリ協定」も、NGOのサポートなしでは成立しなかった。すべての企業は株主・投資家と、消費者・エンドユーザーの意向で動く。その投資家はPRIの元でESGを推進し、企業にサステナビリティの取り組みを迫る。

その投資家を動かしているのは、実は一般市民だ。レオス・キャピタルワークスの藤野英人会長兼社長は「投資先の企業の先には消費者、つまり市民・国民がいる。市民の意向を無視して投資はできない」と言い切る。

ビジネスと人権、ラギー氏と組む

アナン氏の4つ目の贈り物は「ビジネスと人権指導原則」だ。UNGCとMDGsを2000年に一緒に作った盟友ジョン・ラギー氏を、2005年に国連に呼び戻して「ビジネスと人権」の検討を始めさせたのもアナン氏だ。

「ラギー氏の著作『正しいビジネス』には、ラギー氏を懸命に国連に呼び戻そうとするアナン氏の様子が書いてあります」(グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの有馬利男代表理事)

経済のグローバル化によって、日本を含む先進国での格差問題も顕著になった。日本の「移民本格化」も、サプライチェーンの人権問題を喫緊の課題にする。

日本企業は、規模や業種を問わず、経営とサステナビリティの統合が不可欠だ。


【サステナビリティ2022メガトレンド】

①パーパス経営、源流は日本にも

日本でも、企業がパーパス(存在意義)を定める動きが広がってきた。ESGの視点でも、消費者のから共感や信頼を得るためにも不可欠だ。パーパスは英語由来で、海外から輸入した概念と見られがちだが、実は日本の伝統企業の間でも脈々と受け継がれてきた。 (法政大学人間環境学部教授・長谷川 直哉)この続きはこちら


②国際統合報告、一貫性へ大同団結

世界の非財務情報開示をリードしてきた国際統合報告評議会(IIRC)と米国サステナビリティ会計基準審議会( Sサ スビーASB)が2021年6月に統合し、価値創造財団(VRF)として発足した。そのVRFをも取り込む形で、国際財務報告基準( Iイ ファースFRS)の運営財団が2022年6月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を発足させる。今回の基準統合で何が変わるのか。この続きはこちら


「炭素税/排出量取引」は五里霧中

2020年10月の菅義偉首相(当時)による「2050年カーボンニュートラル」宣言を受けて、日本は脱炭素に向けて大きく舵を切った。その根幹政策は「炭素税」と「排出量取引」など「カーボンプライシング」だ。「温室効果ガス46%減」を掲げた「2030年」まであと9年しかないが、その行方は「五里霧中」だ。この続きはこちら


④SDGsで「やる気」高まる

「会社員のSDGs認知度は82.5%と高い水準」「社員へのSDGs達成の告知や教育が実践されている会社ほど、社員のモチベーションも高くなる傾向」―。このほどJTBコミュニケーションデザインが行なったSDGsに関する調査でそんな結果が明らかになった。SDGsに取り組むことは外部からの評価だけでなく、自社の業績向上にもつながるとしている。この続きはこちら


⑤「脱プラ」新法、本丸はリサイクル

プラスチックごみを削減し、回収やリサイクルを通して資源循環を促す「プラスチック新法」が、2022年4月に施行となる。海洋プラごみや気候変動問題に対応し、サーキュラーエコノミーへの移行を図る一歩として期待を集める一方で、専門家や環境NGOからは実効性を疑問視する声も出る。この続きはこちら


⑥「生物多様性」、再び脚光の年

インドネシア・パプワ州では、パーム油生産のため森林伐採と農園開発が進む© Ulet Ifansasti / Greenpeace

2022年は「生物多様性」の年になりそうだ。4─5月に中国の昆明で開く予定のCOP15では、野心的で具体的なグローバル生物多様性枠組(GBF)を採択する予定だ。TCFDの生物多様性版「TNFD」の開発も始まった。 (レスポンスアビリティ代表・足立 直樹)この続きはこちら


下記のメガトレンドは1月5日以降に公開します

⑦ビジネスと人権、舞台は国内へ

⑧「動物福祉」が企業リスクに