原田勝広の視点焦点―温暖化防止に気候工学は有効か

新たな地球温暖化防止策として気候工学(ジオエンジニアリング)が話題になっています。人工的に気候システムに介入して気候危機を回避しようというこの手法は、再生可能エネルギーへの転換などで温暖化ガスを削減する「緩和」でも、異常気象など気候変動の悪影響に社会的に備える「適応」でもない第3の道として有効なのでしょうか。

CO2削減計画実施でも2.4度上昇

英国グラスゴーで2021年末に開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、「(産業革命以降の)気温上昇を1.5度以内に抑える努力」が合意文書に盛り込まれたことは一応の成果です。日本政府も30年度目標としてCO2など温暖化ガス排出量を13年度比で46%減らすと表明しましたが、温暖化への危機感は国際的に共有されているのでしょうか。

米国の2021年の温暖化ガス排出量は前年比で6.2%増えており、バイデン政権が半減を目指す30年の削減目標達成に黄信号がともっています。

また国連気候変動枠組み条約の事務局はCOP26開催にあたり、「30年の世界の排出量は10年比で16%増。今世紀末の気温上昇は2.7度となり、目標達成には遠く及ばない」と悲観的でしたし、COP26での各国の公約を分析したクライメート・アクション・トラッカー(CAT)は、公約された最新計画を実施したとしても地球は今世紀中に約2.4度温暖化するとの衝撃的な分析を公表しています。

干ばつや熱波、山林火災、大型台風、ゲリラ豪雨に慣れた私たちも、90人以上の死者を出した米国中西部の竜巻の原因がメキシコ湾の海水温上昇で、季節外れの温かい湿った空気が流れこみ北からの寒気とぶつかって「スーパーセル」という巨大な積乱雲が発生したためと聞けば驚くし、日本でも今冬は日本海の海水温上昇で水蒸気の巨大な雪雲、JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)がドカ雪をもたらしたと知って、温暖化の恐ろしさを再認識せざるを得ません。

岸田首相は「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会で、カーボンプライシングの検討を指示しましたが、対応の遅れは否めません。そもそも気候変動枠組み条約に各国が署名したのは1992年。30年も前の事なのです。一体、今まで何をしていたのか。Z世代の代表格、グレタ・トゥーンベリさんならずとも、怒りの声を上げたいところです。

国連が配信した1本の動画が話題を呼んでいます。恐竜が突然国連総会に乗り込み、「俺は絶滅に詳しい。自ら絶滅するなんて愚かなことだ。気候変動は壊滅的なのに化石燃料に補助金を費やしている。俺から提案がある。絶滅を選ぶな。手遅れになる前に立ち上がれ」と警告の演説をするという笑えない内容です。

不吉なことですが、世界経済フォーラムが最近発表した2022年版「グローバルリスク報告書」でも、ランキングのトップ10のうち5項目が「気候変動への適応・対応の失敗」「異常気象」など環境関連です。

頼みの綱は小型原発?

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

harada_katsuhiro

原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

執筆記事一覧
キーワード: #脱炭素

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..