キリンホールディングスは「ローカル」を軸に生物多様性の取り組みを強化する。気候変動に対しては国際イニシアティブの「SBT」や「TCFD」などのグローバルな視点から対応する一方で生物多様性に関しては生産地を含めたローカルな視点を重視する。同社製品の主な原料である水と農作物は最も気候変動と生物多様性の影響を受けやすい。これらのリスクをビジネスの機会ととらえ、持続可能な経営につなげていく。(オルタナS編集長=池田 真隆)

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キリンホールディングスは4月8日、環境省が主導する「生物多様性のための30by30 アライアンス」(以下「30by30」)に加盟したと公表した。「30by30」は、2030年までに地球上の陸域と海域の30%を保全することを目標に掲げたイニシアティブだ。生物多様性に関する愛知目標に続く新たな目標で、今年開催するCOP15(生物多様性条約第15回締約国会議)で議論する枠組みだ。

日本の保護地域における生物多様性の保全状況は、陸域が20.5%、海域が13.3%にとどまる。「30by30」で定めた目標値の30%は、保護で得る社会的・経済的価値が保護コストを上回る境目だ。

環境省は目標達成に向け、 民間や自治体などが所有する生物多様性の高い地域を「生物多様性保全に貢献する場所」として登録する仕組みを構築中だ。今回キリンが加盟した「生物多様性のための30by30アライアンス」はこの仕組みへの賛同団体が入っている。

TNFDに先行して独自の取り組みを加速

キリンは生物多様性を重要な経営課題の一つに位置付ける。昨年末には気候変動に関する情報開示を議論するTCFDの生物多様性版「TNFD」にも参画した。TNFDの枠組みは2023年秋頃に決まるが、この動きに先行する形で生物多様性の取り組みを加速する。

特徴は「ローカルな視点」だ。同社では生物多様性を気候変動と表裏一体の関係と認識する。気候変動に関してはGHG排出量の削減に向けてSBTi1.5度認証やRE100に加盟するなどグローバルな視点で取り組むが、生物多様性は生産地に焦点を当てる。

生物多様性は「生態系」「種」「遺伝子」の3つの多様性に取り組むものだが、同社ではこの3つに取り組むには生産地で動くことが欠かせないと考えた。生物多様性に関しては特定の地域で損失が生じた際に他の土地で補完できないという特徴もあり、この観点からもローカルを重視した。

「午後の紅茶」生産地の環境改善

主な事例は、看板商品「午後の紅茶」の原料茶葉・生産地であるスリランカの紅茶農園に対する取り組みだ。日本が輸入する紅茶葉の約半分がスリランカ産で、その4分の1を「午後の紅茶」に使用している。

キリンは、スリランカの紅茶農園に対して「レインフォレスト・アライアンス認証」の取得支援を2013年から行う。2020年末時点でスリランカ全体の認証取得済み大農園のうち、約30%にあたる93農園が取得した。

「レインフォレスト・アライアンス認証」は、自然と作り手を守りながら、より持続可能な農法に取り組み、持続可能性の3要素「環境・社会・経済」をもとにした基準要件に準拠する農園に対して与えられる認証だ。

キリンでは認証支援の取組みを通じて得られたネットワークを活用し、新たな取組みとして水源地保全活動を2018年から始めた。2021年3月末時点では12カ所の水源地を柵で囲んで保全し、地域の在来種を植林することで単一栽培の紅茶農園に多様性を与えた。集中豪雨などで山の斜面から流出した土砂が水源地に流れ込むことも防いでいる。

日本国内では、グループ企業のメルシャンで「日本ワイン」の生産・販売の拡大に向けて遊休荒廃地をヴィンヤード(ブドウ畑)に転換する。ヴィンヤードへの転換による環境影響を調査したところ、ヴィンヤードの垣根・草生栽培を通じて、良好な草原環境が形成されていることが国立研究環境開発法人農業・食品産業技術研究機構との共同研究で判明した。