WWF(世界自然保護基金)ジャパンは4月18日、IPCCが4日に発表した「第6次評価報告書第3作業部会報告書」(AR6/WG3)の解説セミナーを開いた。報告書の執筆に関わった研究者3名を招き、2050年カーボンニュートラルの実現には30年までが勝負で、今できることを速やかに実行しなければならないと強調した。(オルタナ副編集長・長濱慎)

左上から時計回りに、WWFジャパンの小西雅子氏、国立環境研究所の久保田泉氏、森林総合研究所の森田香菜子氏、国立環境研究所の増井利彦氏

■COPの決定はIPCCの科学的知見がベースに

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「第6次評価報告書」は、3つからなる。第1作業部会報告書(21年8月)は、気候変動の原因が人間の活動にあることを「疑う余地がない」と初めて断定。第2作業部会報告書(22年2月)は「気候変動が広範囲に悪影響を及ぼしている」と警告した。

今回の第3作業部会報告書は、気温上昇を産業革命以前から1.5℃に抑えるために取るべき施策をまとめたもので、22年秋に第1、第2、第3を合わせた統合報告書が出る予定だ。

WWFジャパンの小西雅子・専門ディレクター(環境・エネルギー)は「IPCCは、国連のCOP会議などにおける国際交渉に役立てられるタイミングで報告書を発表してきた。1.5℃目標や2050年排出量実質ゼロといった国際的な合意は、報告書の科学的知見をベースに決まった」と、報告書の意義を説明した。

■20ドル未満の施策で30年40%削減ができる

報告書の第4章「短期・中期の緩和・開発経路」に関わった国立環境研究所の増井利彦・領域長(社会システム領域)は「2010年から19年の温室効果ガス排出量の年平均値は人類史上最高となり、気温上昇を1.5℃に抑える経路上にないことを報告書は明らかにした」と語り、注視すべきポイントを挙げた。

・既存・計画中を合わせた化石燃料インフラ(主に石炭・天然ガスの火力発電)が2018年以降に排出するCO2の累積量は 850ギガトン。1.5℃目標の達成に許される累積排出量の500ギガトンを上回ってしまう。

・気温上昇を1.5℃に抑えるには、遅くとも2025年までに世界全体の温室効果ガス排出量をピークアウト(頭打ち)、30年までに約40%削減(19年比)、50年代初頭にCO2排出量を実質ゼロにしなければならない。

・上記の目標達成は、100米ドル/tCO2以下(大半は20米ドル/tCO2未満)の施策で可能。すでに風力や太陽光発電、バッテリーのコストは大幅に低下しており、導入するほど経済的な便益が得られるような排出量削減を見込める。

増井氏は「将来世代に対して、どう責任を持って取り組むのかが問われている。未来のイノベーションに頼るのではなく、今できることを着実に進めるべき」と強調した。

■化石燃料から気候対策へ資金のシフトを

第14章「国際協力」に関わった国立環境研究所の久保田泉・主幹研究員(社会システム領域・地域計画研究室)は、環境法の観点から報告書を解説。重要な4つの施策を紹介した。

1)気候ガバナンス:国と地方の政策決定レベルを結び付け、市民、政治、ビジネスなど多様なステークホルダーを積極的に関与させる

2)政策手段:すでに削減効果が証明された規制や経済的手法を、大幅に強化・拡大する

3)ファイナンス:必要な水準を下回る資金フローを拡大させるために、明確な政策の選択を行い、政府・国際コミュニティからシグナルを発信する

4)国際協力:野心的な気候変動目標の達成には、条約などの国際協力が不可欠

久保田氏は「環境問題に関する国際条約には生物多様性の損失、オゾン層破壊、越境大気汚染などがある。気候変動と解決策が重なるこれらの課題にも、合わせて取り組んでいくことが重要」と語った。

第15章「投資とファイナンス」に関わった森林総合研究所の森田香菜子・主任研究員(生物多様性・気候変動研究拠点)は、気候変動対策に十分な資金が流れていない現状を明らかにした。

・先進国から途上国への資金支援は重要だが、「2020年までに年間1000億米ドルを動員する」というパリ協定の目標を下回っている

・グリーンボンド、ESG投資、サステナブルファイナンスの市場は大幅に拡大しているが、途上国ではまだ限定的

・気温上昇を2℃未満に抑えるために2030年までに必要な投資額は、現在の資金フローの3〜6倍

森田氏は「資金はあるが気候変動対策に向けられておらず、化石燃料に流れる額の方が多い。資金の流れを変えるには、各国政府や国際社会が明確な方針を示すべきで、政策決定者を含む多様なステークホルダーで議論することが大切」と、締めくくった。