■ライフル 井上高志社長インタビュー

栃木県那須町で東京ドーム170個分という広大な土地を舞台に、ドローンや次世代ハウジングなどの先端技術を使い「循環生活」の実証実験を行う「ナスコンバレー」という構想が進んでいる。この構想に会社名は非公開だが大手IT企業など36社が参画済みだ。仕掛け人は不動産ポータルサイト「LIFULL HOME’S」などを運営するLIFULL(ライフル)の井上高志社長。構想した意図を聞いた。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

ナスコンバレー構想を話すライフルの井上社長

――2021年10月、栃木県那須地域での「ナスコンバレー構想」を発表しました。ドローンの社会実装や次世代ハウジング、ウェルビーイングの計測などの実証実験を行います。

「ナスコンバレー」は、イノベーションを社会実装するための場です。ここでは、様々な団体と連携して、ドローンでの配達や次世代モビリティやモバイルハウスでの暮らし、遠隔医療や遠隔教育などの実証実験を繰り返していきます。先進技術を那須地域で実証して、将来的にはその成果を国内外でも展開することを目指しています。現在、IT企業など36社が参画しています。

東京ドーム170個分の私有地を含む那須地域の広大な実証フィールドを活用し、国内最大規模の「リビングラボ」に取り組む

廃棄した資源を活かして再生産する「循環型生活」を重視しますが、なかでも、特に注力している社会課題が「ウェルビーイング」です。個人的には2030年を目標年としたSDGsの次の時代に世界が最重要視する課題だと思っています。

人々は心身ともに幸福になるために、あらゆる生物や自然環境と調和した上でのウェルビーイングを追求するでしょう。

歴史を振り返ると、生きるために生き物を狩猟したり、食べ物を採集したりしてきた時代では、住む場所は自由でした。季節によって、場所を変えながら生きていました。ところが農業革命によって、人は地理的・時間的制約を受けるようになり、暮らし方が変わりました。

今はテクノロジーの力によって、お金や時間、場所の制約を受けずに自由に暮らすことができる時代になったと考えています。AIやロボットなどを駆使することで、「限界費用ゼロ社会」をつくれます。

これまでの中央集権的な社会統治システムから脱却できるので、例えば教育も一律の内容を教えるのではなく、個々の多様性を踏まえた形になります。一人ひとりのニーズに合ったパーソナライズされた教育を受けた子どもは自由意思で物事を決定できるようになり、ウェルビーイングにもつながります。

ナスコンバレーでは21世紀型社会に求められるソリューション(エコシステム、サービス、製品)の共創・実証実験・社会実装の場を目指す *クリックすると拡大します

――ウェルビーイングに着目したのはなぜでしょうか。

ウェルビーイングに目を付けたのは、医療技術の発展が背景にあります。30年以内にはIPS細胞で脳細胞以外は再生できるようにもなるといわれています。脳細胞に関しても、ウェアラブルデバイスを装着すれば脳内の思考回路がデータ化できます。つまり、人工脳を使えば、歳をとっても20代の脳のままで暮らすことができるようになるのです。肉体もIPS細胞で若返るので、実質「不老不死」が実現できるかもしれません。

さらに、染色体の「テロメア」をもとに人の寿命がわかる研究も進んでいます。命の長さが可視化できると、暮らし方が変わります。このような社会では、人は「幸せ」とは何か追い求め出すと思います。

幸せになりたいから健康を心掛け、幸せになりたいからお金を稼ぐ、幸せになりたいから、しっかりと教育を受ける、すべての経済も文化も宗教も幸せに結びつくはずです。

――ウェルビーイングを追求するために、企業には何ができるとお考えですか。

人が幸福を感じるには「安心」と「喜び」が不可欠だと思います。よく勘違いされがちですが、いい気分のときだけを「幸せ」ととらえるのではなく、「中庸」であることが「幸せ」なのです。

ライフルでは健康経営の一環として、ウェルビーイングの測定を毎月行っています。人事に気軽に相談できる仕組みにして、数値が下がった社員には声をかけてサポートするようにしています。