小林製薬は、従業員のサステナビリティに対する意識を高め、行動を促すための社内ワークショップを2020年から続けている。この6月には国内企業としてはじめて、気候正義を訴える「フライデーズ・フォー・フューチャー(FFF)」の学生メンバーを招き、気候危機にどう取り組むかを議論した。(オルタナ副編集長・長濱慎)

オンライン形式で約150名が参加。最上段左から2人目がFFFの角谷さん、3人目が小林さん

■気候危機を「他人事」ととらえていたと思い知らされた

小林製薬の社内ワークショップ「サステナビリティMeetUp!」はオンライン形式で2020年8月に始まり、22年6月で23回目となった。FFFはスウェーデンの環境活動家・グレタ・トゥーンベリに共感した世界各地の若者が起こした気候正義ムーブメントで、日本では2019年2月に活動が始まった。

サステナビリティ戦略推進グループの坂田沙織さんは、FFFをゲストに呼んだ経緯を振り返る。

「社内の環境担当に着任した当初は、気候変動対策を『仕事』ととらえていました。しかしFFFの活動を目にして、本来なら部活や趣味に勤しむ時期に地球の未来のために必死に声をあげる若い世代に申し訳なくなりました。自分もライフワークとして気候変動に取り組み、その思いを従業員にも共有してほしいと思ったのです」

ワークショップは2人のFFFメンバーによるプレゼンテーションから始まった。北海道からオンライン参加した高校生の角谷樹環(こだま)さんは、「気候正義」について説明した。

「気候危機は先進国より途上国、豊かな人より貧しい人というふうに、弱い立場の人ほど被害が大きくなります。日本に暮らす私は気候危機の被害者であると同時に、途上国から見れば加害者でもあります。こうした不公正を正す視点を持つことが、気候危機対策には大切です」

続けて、「社会を変えようにも私にはまだ選挙権がありませんし、政治家になるにも、そこまで待てる時間はありません。気候危機にはタイムリミットがあるからです」と訴えた。

大学院生の小林誠道(まさみち)さんは、「これから企業がサステナビリティに取り組むのは当たり前になります。特に気候危機対策は一部の人がやれば良いものではなく、万人の必須項目になりました。脱炭素へのチャンスととらえて事業を進めてほしいです」と、企業への要望を語った。

参加した従業員は約150人。FFFのプレゼンテーションを受けて行ったグループディスカッションでは「いかに気候危機を他人事と考えていたかを思い知らされた」という声が次々に上がった。

■プラスチック使用量削減など学びを事業に反映した事例も

「サステナビリティMeetUp!」はこれまで、プラスチックごみ問題、再生可能エネルギー、ジェンダー、障がい者雇用、教育と平和など、ESG(環境、社会、ガバナンス)に関するさまざまなテーマを取り上げてきた。サステナビリティ戦略推進グループの関雄(せき・ゆう)さんは、立ち上げた背景をこう語る。

「小林製薬は中期経営計画の一つに『ESG視点で経営を磨く』を掲げています。しかし従業員への意識調査では、ESGの大切さを理解しているという回答が8割に対し、具体的・意欲的に取り組めていると答えたのは4割に過ぎませんでした。そこで、一人ひとりが行動を起こす機会として始めたのが『サステナビリティMeetUp!』です」

ワークショップを続けてきた成果のひとつが、「香りサンプル」の素材変更だ。これまで店頭に置く芳香・消臭剤サンプルのパッケージ(年間約200万個)は、プラスチックを使っていた。しかし、ごみ問題を学んだ従業員の提案で紙由来の新素材に置き換え、プラスチックの使用量を半減させた。

「LIXILさんやサラヤさんをゲストに招いたこともあります。他社のサステナビリティの取り組みを学ぶことで、CSVに取り組むブランドが増えました。また、アンコンシャス・バイアス(※)を2回にわたって取り上げた後には自主勉強会が立ち上がるなど、具体的な行動を起こす従業員が増えました」(関さん)

※アンコンシャス・バイアス:「女性は家庭優先、男性は仕事第一」など、気づかないうちに刷り込まれる無意識の思い込み。しばしばジェンダー平等などを阻害する原因となる。

ステッカーも作成し、社内浸透を図る

今回のFFFとの交流では、「環境に関するリテラシーを身につけるため、自分から情報を取りにいきたい」、「子や孫世代のことまで考えている政治家に投票したい」など、まずは個人としてできることに取り組もうという声が多く上がった。FFFのメンバーは、折に触れてこう訴える。

「個人が生活スタイルを変えることはもちろん大切です。しかしそれ以上に社会システムを変えることが重要で、化石燃料や大量生産・消費・廃棄に依存する社会システムを変えなければ根本的な解決にはなりません。これを成し遂げるには個人だけでは不可能で、企業の力が必要です」

従業員一人ひとりが行動を起こすことは、この「宿題」に答える第一歩になるだろう。