環境NGO4団体、3メガバンクなど6企業に「脱炭素」株主提案

記事のポイント


  1. 環境NGO4団体が、6企業に気候変動対策の強化を求める株主提案を提出
  2. 特に3メガバンクへの同時提案は初めてで、対策強化の底上げを求める
  3. 株主提案は今年で4回目。過去には35%近い賛成を得た提案も

環境NGO4団体とその代表者を含む個人株主は4月11日、金融、商社、電力の3業界・6企業に気候変動対策の強化を求める株主提案を提出した。対象となった6社はいずれも東証プライム市場に上場しており、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に沿った情報開示など、国内企業の先陣を切った取り組みが求められている。しかし2050年ネットゼロに重要な期間となる2030年までの計画が不十分など、まだ改善すべき点は多く、環境NGOはパリ協定の1.5℃目標に沿った実効性のある対策強化を求めている。(オルタナ副編集長・長濱慎)

株主提案は2023年で4回目を迎え、過去最多の6社への提案となった(写真:Taishi Takahashi / Market Forces)

■ネット・ゼロを掲げたにもかかわらず、化石燃料への関与を続ける矛盾

株主提案を提出したのは、マーケット・フォース(豪)、国際環境NGO FoE Japan、気候ネットワーク、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)の4団体。6社に対し、定款の一部変更として以下の対応を求めた。

●メガバンク3行(三菱UFJFG、三井住友FG、みずほFG)

〈提案内容〉
・2050年炭素排出実質ゼロを求めるパリ協定1.5度 目標と整合する、投融資ポートフォリオを含む移行計画の策定開示

〈提案の背景〉
・メガバンクは2050年ネットゼロの目標や方針を掲げている。しかしその内容は、国際エネルギー機関(IEA)やネット・ゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)など、世界的なイニシアチブが求めるレベルに達していない。
・新規の石油・ガス関連事業の支援制限に関する方針が、海外の金融機関に比べて不十分。
・NZBAのガイドラインでは農業分野の削減目標設定が必須だが、メガバンクは定めていない。
・石炭火力以上にCO2を排出する木質バイオマス発電について、排出量報告・情報開示を行っていない。

●三菱商事

〈提案内容〉
・パリ協定目標と整合する中期及び、短期の温室効果ガス削減目標を含む事業計画の策定及び開示
・新規の重要な資本的支出と2050年温室効 果ガス排出ネットゼロシナリオとの整合性評価の開示

〈提案の背景〉
・三菱商事の排出量の多くを占める「スコープ3」は3億8100万トンあり、英仏各国の化石燃料の年間排出量を上回っている。にもかかわらず、削減目標を定めていない。

●電力2社(東京電力HD、中部電力)

〈提案内容〉
・2050年炭素排出実質ゼロシナリオと資本配分との 整合

〈提案の背景〉
・2社の合弁企業であり、日本最大の火力発電事業者であるJERAは、新規の化石燃料事業を行いながら「ネットゼロ企業」を名乗っている。
・国のGX(グリーン・トランスフォーメーション)が石炭・アンモニア混焼の推進にお墨付きを与えてしまい、石炭火力発電の温存につながりかねない。

■提案の半数が賛成率20%超え、34.5%を得たケースも

環境NGOによる株主提案は2020年に始まり、今年で4回目だ。6社への提案は過去最多で、とくにメガバンク3行への同時提案は初となった。その狙いについて、マーケット・フォースの渡辺瑛莉・エネルギーファイナンスキャンペーン担当は、こう語る。

「これまでは各年に1行ずつ提案をしてきたが、これでは2050年ネットゼロ実現に重要な期間となる2030年に間に合わない。3行まとめて提案することで、メガバンクの気候変動対策を一気に底上げさせたい」

左から、マーケット・フォースの渡辺瑛莉氏、RANの川上豊幸氏、FoE Japanの深草亜悠美氏、気候ネットワークの鈴木康子氏

今回の株主提案も前年までと同様に、定款変更を求めるかたちで行った。「会社の憲法」とされる定款を変えるには3分の2以上の賛成が必要で、実現のハードルは高い。他に勧告的提案という方法もあるが、株主総会前に却下されるリスクが大きい。現行の会社法のもとでは、株主の声を届ける確実な方法は定款変更しかない。

気候ネットワークの鈴木康子・プログラムコーディネーターは、こう述べる。

「自分たちの持っている株式数は、議決権個数全体から見ればコンマ数パーセントに過ぎないが、小さな声で大きな波紋を作りたい。以前は株主総会で気候危機のトピックが上がること自体なかったが、機関投資家からの注目も年々高まっており、認知度は着実に上がっていると感じている」

実際に2020年のみずほFGへの提案は、34.5%の賛成率を得た。その後2022年までに累計8社・10件以上の提案を行い、いずれも否決されたたものの半数が20%を超える賛成を集めている。


S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #ESG#脱炭素

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