メルシャン、国産ワインのブドウ畑で豊かな生態系を育む

■小林光のエコめがね(31)■

記事のポイント


  1. メルシャンは長野県上田市に「椀子(マリコ)ヴィンヤード」を開場
  2. 同社は遊休荒廃地を国産ワインのブドウ畑に転換した
  3. 圃場では、希少種をはじめ草原を主な棲息地にする昆虫や植物が確認された

シャトー・メルシャンのブドウ畑「椀子(マリコ)ヴィンヤード」(長野県上田市)は、開業後20年の若い圃場だ。広さは約30ヘクタールで、かつては、桑畑であったが生糸業の衰退とともに放棄され荒廃農地となっていた。

地元で、再利用の方途を探っていたところ、メルシャンの目にとまった。メルシャンは、栽培委託をしている連携農家にはお願いできないような挑戦的なブドウづくりを広く行うため、直轄の営農のチャンスを求めていたのである。

この場所は、水はけの良い台地で風当たりも強い。日本でのワイン用ブドウの栽培の弱点である多湿やそれによる病害を防ぎやすい立地だった。

そうして高品質なブドウ栽培に挑戦しているうちに、予期せぬ効果が現れた。草原が蘇ってきたのである。その顛末は、以下のとおりであると聞いた。

なぜブドウ栽培で草原が生まれるのか

そもそもブドウ栽培で、なぜ草原が生まれるのか。フルーツとしてのブドウ栽培は日本では棚仕立てで行うので、雨による土壌流出の心配は少ない。

しかし、ワイン醸造用の高糖度のブドウづくりの中には、収量が落ちるものの、糖分を果実に集められる垣根仕立てをするケースが多い。その場合は、ブドウの畝の間の地面は直接雨にたたかれる。そこで、侵食されないよう草地にする圃場づくりが行われる(写真参照)。開業時の圃場の草地づくりには、牧草数種の混合播種が行われた。

「椀子(マリコ)ヴィンヤード」の圃場づくり。環境NPOアースウォッチ・ジャパンのスタッフは、スミレの分布調査をしている

そうして開業した後10年以上たった頃、国産ワインのみで醸造したワインには「日本ワイン」との表示が公的に行える制度ができたので、メルシャンは、ブドウ栽培の拡大を経営方針とした。

その拡大先は、荒廃農地であるが、そうした拡大が、では、自然環境にどのような影響があるのか、知っておく必要が出てきた。

そこで、キリングループとして、農研機構との共同研究を始めた。そうしたところ、環境省のレッドデータブックに載るような希少種を含め、草原を主な棲息地にする昆虫や植物が確認されたのである。

生物多様性は向上したのか
草原の復活はワイン製造に影響があるのか

有料会員限定コンテンツ

こちらのコンテンツをご覧いただくには

有料会員登録が必要です。

hikaru

小林 光(東大先端科学技術研究センター研究顧問)

1949年、東京生まれ。73年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、環境庁入庁。環境管理局長、地球環境局長、事務次官を歴任し、2011年退官。以降、慶應SFCや東大駒場、米国ノースセントラル・カレッジなどで教鞭を執る。社会人として、東大都市工学科修了、工学博士。上場企業の社外取締役やエコ賃貸施主として経営にも携わる

執筆記事一覧
キーワード: #生物多様性

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..