記事のポイント
- テニスの全米オープンでは約10万個のテニスボールを使用した
- 年間3.3億個製造されるテニスボールはほぼそのまま廃棄される
- なぜリサイクルできないのか、テニスボールならではの事情があった
9月11日に閉幕したテニスの全米オープンでは約10万個のテニスボールを使用したという。年間3.3億個製造されるテニスボールのほとんどは、リサイクルされずに廃棄される。混紡フェルトと、簡単には壊れない頑丈な構造が、リサイクルを難しくしている。(オルタナ編集部・北村佳代子)

著作者:jcomp/出典:Freepik
テニスの「全米オープン2023」は9月11日、男子シングルスはノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)が、女子シングルスはコーリ・ガウフ選手(米国)が優勝して幕を閉じた。
全米オープンのようなグランドスラム大会では、ニューボールへの交換は、まずは試合開始から7ゲーム経過後に、その後は9ゲーム経過ごとにすることになっている。AP通信によると、全米オープンでは、約10万個のテニスボールを使用した。
テニスボールはリサイクルが難しく、容易にリサイクルできるボールはまだ開発されていない。
そのため、世界で毎年3.3億個製造されるテニスボールのほとんどすべてが、使用後は埋め立て廃棄になる。埋められたテニスボールが分解されるのには400年以上かかるという。
■なぜテニスボールはリサイクルが難しいのか
テニスボールは、1920年代に加圧ボールが登場して以来、ほとんどその中身は変わらない。空気の入ったゴムの芯(コア)に、フェルトを接着してカバーする。
フェルトは、ウールとナイロンの混紡フェルトを使っているためリサイクルが難しい。
しかし、リサイクルする上での最大の障壁は、ラケットで打たれても剥がれないように、強力にフェルトがゴムに接着されていることだという。
コロンビア大学地球工学センターのニコラス・J・テメリス・ディレクターは、AP通信に対し、「多くの物体同様、テニスボールは機械でも破壊できないよう非常にレジリエント(頑丈)に作っている」と説明した。
世界最高峰の試合では、テニスボールのコアの部分のゴムには、バージンゴムが使われる。環境活動家らは、アマゾンのゴムの木の伐採につながる点も問題視する。
■サステナブルなテニスボールの開発に向けて
こうした課題に対処すべく、国際テニス連盟は昨年、メーカーやリサイクル業者も交えた技術作業部会を発足した。
国際テニス連盟のロンドン研究所のジェイミー・カペル=デイビーズ技術責任者は、「まずは使用するボールの数を減らし(リデュース)、再利用(リユース)に努め、最後にリサイクルが来るはず」と、3Rの優先順位や、製品や消費のあり方をサステナブルに改める必要性を強調する。
使用済みボールを回収し、犬のおもちゃやいすの底などにリユースする取り組みもある。しかし完全にリサイクル可能なテニスボールがないという根本的な問題や、ボールそのものの製品設計の見直しに向き合うことも重要だ。
ウィルソン・スポーティング・グッズ社のグローバル・ラケット・スポーツ部門のジェイソン・コリンズ総責任者は、「トップアスリートが要求する性能仕様を満たしつつ、完全にリサイクル可能なテニスボールはまだない」と認める。
しかし同社は、空気が漏れにくい構造のコアを使ったテニスボールを、紙製のパッケージで届ける新製品「TRINITI(トリニティ)」など、地球環境を考えた製品の開発を進める。リサイクルされたゴムを使用したテニスボールもラインアップに加えた。