記事のポイント
- カーボンクレジット市場の需要動向などを分析したレポートが公開された
- 283企業・団体に排出量取引の取引予想価格などを聞いた
- 排出枠については2030年に「6001円以上」と予想した事業者が最も多かった
カーボンクレジットに関するコンサルティングサービスを提供する、exroad(エクスロード、東京・港)と東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室はこのほど、カーボンクレジット市場の需給動向などを分析したアンケート結果を公開した。アンケートでは、283企業・団体に排出量取引の取引予想価格や購入を考えているクレジットの種類などを聞いた。排出枠の取引予想価格については、2030年時点で「6001円以上」と予想した事業者の数が最も多かった。(オルタナ輪番編集長=池田真隆)
エクスロードと東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室は5月21日、「カーボンクレジット市場 調査レポート」の概要版を無料で公開した。今年3月10日から4月11日に掛けて、カーボンクレジット市場における需要者など283企業・団体にアンケートを行った。
政府は2月末、GX推進法の改正案を閣議決定した。改正案では、2026年度からCO2の年間排出量が10万トン以上の事業者に排出量取引への参加を義務付けることなどを盛り込んだ。
■鉄鋼など400社に排出量取引への参加義務付け
参加を義務付けた年間で10万トン以上のCO2を排出する事業者は、電力や鉄鋼などを中心に300~400社に及ぶ。それらの事業者の温室効果ガス(GHG)排出量を合算すると、国内のGHG排出量の6割に相当する。
日本では、「GX-ETS」という名称の排出量取引制度を2023年度から行ってきたが、参加の義務も罰則もない「プレッジ&レビュー」方式だった。だが、2026年度からはEUなどが先行して行う「キャップ&トレード」方式に変える。
事業者は政府から割り当てられた排出枠を超過した場合、超過しなかった事業者と取引したり、クレジットを購入することで、超過分を埋め合わせする仕組みだ。取引しても埋め合わせができなかった事業者は、国に負担金を支払う。
エクスロードなどが行ったアンケート調査では、GX-ETSにおける排出枠の取引予想価は、2027年時点では、CO2排出量1トン当たり「4001円~6000円」が23%と最も多かった。2030年時点では、「6001円以上」が36%と最も多く、将来的に取引価格が上がっていくと予測する事業者の割合が多いことが分かった。
購入済み、もしくは、購入検討中のクレジットの種類について聞いた質問では、J-クレジットが最も多く84%だった。次いでJCM(二国間クレジット)が36%だった。
■トン当たり1万円で脱炭素技術の採算性が出る
排出量取引は、「カーボンプライシング」と呼ばれる政策の一つだ。カーボンプライシングとは、企業などに自社が排出するCO2の量に応じて、政府が価格を付けるもので、経済合理的に排出削減に取り組みやすくする。
日本でカーボンプライシングに当たるものは、地球温暖化対策のための税(温対税)だ。温対税では、CO2排出量1トン当たりの税率はわずか289円だ。
カーボンプライシングに詳しい、京都大学大学院の諸富徹・経済学研究科教授は、今回のアンケート調査で明らかになった排出枠の取引予想価格について、「30年時点で6000円程度に達するのであれば、それなりの影響を与えるだろう」と話した。
「現在は温対税の税率が289円であることを考慮すると、相当大きな炭素価格の引き上げを予想していることになる」(諸富教授)
一方、諸富教授は、脱炭素技術の採算性が取れるようになるには、「1トン当たり1万円程度まで上がらないといけない」と話した。