ブリヂストン: モビリティ変革期、技術力で未来を切り拓く

記事のポイント


  1. 自動運転技術の発展やEVシフトなどモビリティ業界は変革期を迎えている
  2. 気候変動対策や資源の有効活用も喫緊の課題だ
  3. ブリヂストンの稲継明宏氏に、同社のサステナ経営戦略を聞いた

自動運転技術の発展やEV(電気自動車)シフトなど、モビリティ業界はかつてない変革期を迎えている。気候変動対策や資源の有効活用も喫緊の課題だ。タイヤ業界の未来はどうなるのか。ブリヂストンの稲継明宏・グローバルサステナビリティ戦略統括部門長に、同社の戦略を聞いた。(オルタナ輪番編集長・吉田 広子、撮影・川畑 嘉文)

稲継明宏(いなつぎ・あきひろ)
株式会社ブリヂストン グローバルサステナビリティ戦略統括部門 統括部門長
2004年、ブリヂストン入社。環境宣言のリファイン、環境長期目標の策定など、環境戦略策定に従事。2015年からグローバル全体のCSR戦略企画を推進。2018年に経営企画部長としてグローバル本社の経営企画業務を経て、2019年からグローバル全体のサステナビリティ戦略の推進に従事している

■人やモノの移動は存在し続ける

――モビリティ業界は100年に1度の変革期にあると言われます。タイヤ事業の未来をどのようにとらえていますか。

確かに今は、気候変動や地政学リスクなど、さまざまな変化が起きている時代です。しかし、そうした時代においても、人やモノの「移動」という行為自体は、存在し続けると考えています。

変化が常態化する中で、ビジネスリスクは増加しますが、同時にビジネスチャンスも生まれます。変化をチャンスと捉え、お客様に寄り添いながら課題を解決し、それを「価値」に変えていくことが重要だと考えています。

――タイヤ事業は今後も拡大していくでしょうか。温室効果ガス(GHG)を排出する自動車に対する見方も変わってきています。

「量の拡大」というよりも、ユーザーの困りごとを解決しながら、人とモノの移動を支える 「質」をいかに高めていくか、という方向に向かっていくべきだと考えています。この「質」の中には、当然サステナビリティの視点も含まれています。

例えば、一次寿命を終えたタイヤのトレッドゴム(路面と接する部分)を削り、その上に新たなゴムを貼り付けて再利用する「リトレッドタイヤ」があります。

持続可能な形でどう「移動」を支えていくかが、これからの重要なテーマです。 さらに、単にタイヤという製品を「創って売る」だけではなく、メンテナンスサービスなど、「使う」段階も重要な事業領域になっていくと考えています。

表面を削って、新しいゴムを貼付けたリトレッドタイヤ
表面を削って、新しいゴムを貼付けたリトレッドタイヤ

■多様化するニーズに技術で応える

――自動運転車やEVの普及によって、タイヤに求められる性能や機能は、多様化しています。クオリティを維持しつつ、多様な製品を量産することに、課題はありますか。

これまでの「走る」「止まる」「曲がる」といった基本性能に加え、静粛性や耐摩耗性 など、タイヤに対するニーズやウォンツは多様化しています。低燃費性能や軽量化、長寿命化といった環境性能も重要な要素です。

一方で、ある性能を高めると別の性能が損なわれるといった二律背反的な関係も存在します。これらを高いレベルで両立させるには、極めて高度な技術力が求められます。

当社では現在、商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載した新商品の展開を進めています。従来のタイヤ性能を全て向上させた上で、環境性能やそれぞれの市場やお客様の顕在化している要求や潜在的な要求を叶えるだけでなく、多様なクルマ・使用環境における特性にあわせて新たな価値を提供する性能にエッジを効かせる「究極のカスタマイズ」を追求する 技術です。

私たちは、これら多様な性能を「多角形」のイメージでとらえています。ニーズに応じて各性能軸を広げたり、特定の軸を尖らせたりしながら、全体のバランスを取り、最適な製品へと仕上げていく。

通常の機能とサステナビリティ性能を別々に並べて「どちらを優先しますか」といった選択を迫るような話ではありません。

今は、それらすべてを含めた「総合的な性能」の中で、いかにバランスをとって最適な製品を生み出すか――。そういう時代に入ってきていると思います。

■使用済み製品をタイヤに「戻す」

――一般的には、材料がシンプルであればあるほどリサイクルしやすいと言われています。タイヤは多様なニーズに応える必要があるため、リサイクルとの両立が難しいのではないでしょうか。

タイヤは多くの素材が組み合わさった複合体です。タイヤを製造する際には、「加硫(かりゅう)」といって、弾力性をもたせるために硫黄を加えたうえで、熱と圧力をかけて化学反応させる工程があります。

一度加硫を行うと、元の状態に戻すのが非常に難しく、多くのエネルギーを必要とします。これが、タイヤの水平リサイクルの大きな課題とされてきました。

まずタイヤを長く使い続けるためには、空気圧を適正に保つことや、定期的なローテーションなど、日常的なメンテナンスが非常に重要です。そうした適切なメンテナンスを実施することで、タイヤをできるだけ長く使っていただくことが第一のステップになります。

しかし、適切に使用していても、やがて「使用済み」となるタイミングは訪れます。

トラック、バス、航空機用の大型タイヤは、構造がしっかりしているため、トレッドがすり減っていても構造が健全であれば、リトレッドタイヤとして再利用が可能です。

一方で、一般的な乗用車用の使用済みタイヤは、リトレッドは難しい。細かく砕いてゴムパウダーにすることで、一部は材料として再利用できます。多くの場合はチップ化して、石油資源の代替燃料として熱利用されているのが現状です。

そこで、現在、当社ではケミカルリサイクルの技術で、使用済みタイヤを再び材料として再生できるようにするための技術開発を進めています。一度、使用済みタイヤを熱分解して、分解油や再生カーボンブラックを回収し、回収した分解油を用いて合成ゴムの素原料を製造することで、再生カーボンブラックと共にタイヤ原材料として再利用することを目指しています。

タイヤの水平リサイクルの社会実装に向けて、関工場(岐阜県関市)敷地内にパイロット実証プラントを建設することを決定し、2027年9月の稼働開始を予定しています。

(この続きは)
循環ビジネスへの挑戦、危機感が原動力
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■循環ビジネスへの挑戦、危機感が原動力

グローバル全体でサステナビリティを推進する稲継統括部門長

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yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #サステナビリティ

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