東大・江守教授に聞く(2)1.5℃に戻すための「ネットネガティブ」は現実的なのか

記事のポイント


  1. 平均気温上昇が1.5℃を超えた後、気温を下げるには「ネットネガティブ」にする必要がある
  2. 日本の脱炭素戦略は、排出削減が困難な領域「Hard to abate」への投資が多い
  3. 江守教授は期待する取り組みとして「営農型太陽光発電」を挙げた

国連環境計画(UNEP)の報告書「Limiting Overshoot(オーバーシュートを抑える)」は、世界の平均気温が1.5℃を超えた後、温室効果ガスの排出を差し引きでマイナスにする「ネットネガティブ」によって、再び気温を下げる道筋を示した。大量のCO2吸収が必要になるネットネガティブはどこまで現実的なのか。日本の脱炭素戦略の課題と併せて、東京大学未来ビジョン研究センターの江守正多教授に聞いた。(聞き手=オルタナ輪番編集長・北村佳代子、オルタナ副編集長・京正裕之)

江守 正多(えもり・せいた)
東京大学未来ビジョン研究センター教授
1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域副領域長等を経て、2022年より現職。東京大学大学院総合文化研究科で学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書主執筆者、第7次評価報告書査読編集者。

■「ネットネガティブ」、誰がどれだけ吸収するのか

――UNEPの報告書では、世界の平均気温が1.5℃を超えた後、気温を下げるために温室効果ガスを差し引きでマイナスにする「ネットネガティブ」が必要になるとしています。これは現実的に可能なのでしょうか。

現在、世界では年間約400億トンのCO2を排出しています。社会に必要なエネルギーを作るために、化石燃料産業が稼働しているとそうなるわけです。これに対して、例えば、正味で年間100億トン規模のCO2を大気から吸収しようとすれば、現状の世界の化石燃料産業と同じ桁の規模の、巨大な「CO2吸収産業」を成立させなければならない、というイメージになります。それを誰が投資して、どうやって投資を回収するのか。そこがまず、なかなか想像しにくい。

もう一つ難しいのが、国際的な負担の分配です。ネットゼロは、達成時期には差があっても、「最終的に排出を実質ゼロにする」というゴールは各国に共通しています。

ところがネットネガティブになると、「誰がどれだけCO2を吸収するのか」という問題が出てきます。歴史的な排出責任に応じて各国の吸収量を決めるのか、市場メカニズムを使って吸収した主体に世界全体でお金を払う仕組みにするのか。そうした制度について国際的な合意ができるのかも分かりません。

今の段階では、まだ具体的な姿をイメージしにくい世界です。しかし、オーバーシュート後に気温を下げるのであれば、それをやらなければならないという議論になってきています。

■脱炭素には「安く減らせる領域」がある

――日本政府はGX(グリーントランスフォーメーション)を掲げ、ペロブスカイト太陽電池、水素・アンモニア、CCS(CO2の回収・貯留)、次世代原子炉などへの投資を進めています。日本の脱炭素戦略はどこに重点を置くべきでしょうか。

脱炭素を考える時には、「Easy to abate(イージー・トゥ・アベイト、排出削減が比較的容易な領域)」と「Hard to abate(ハード・トゥ・アベイト、排出削減が難しい領域)」に分けて考えると分かりやすいと思います。

Easy to abateとは、電化しやすい分野や、もともと電気を使っている分野です。電気を再生可能エネルギーで脱炭素化し、これまで燃料を使っていた分野でも電気で同じことができれば、GHG排出量を減らしやすい。省エネや再エネ、電化などは初期投資こそ必要ですが、長く使えば投資を回収でき、その後は経済的なメリットが出る可能性があります。つまり、コストを減らしながら脱炭素できる部分が大きい領域です。

一方、Hard to abateには製鉄や化学素材など、どうしても燃料や原料としての水素や炭化水素等を必要とする分野があります。例えばグリーン水素を使って合成燃料をつくる場合などは、現在は従来技術よりコストが高くなります。

問題は、日本がコストを減らしながら脱炭素できる可能性が高いEasy to abateの領域の産業技術で、中国にかなり押されていることです。世界の太陽光パネル生産では、中国が圧倒的なシェアを占めています。電気自動車(EV)では日本企業にまだ可能性がありますが、現状では厳しい競争になっています。

■「安く減らす」より「高く減らす」技術に投資
■日本で期待するのは「営農型太陽光」

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hkyosho@alterna.co.jp

京正裕之 (オルタナ副編集長)

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キーワード: #気候変動#脱炭素

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