IPCC「地球の気温上昇、1.5度と2度は大違い」

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は10月8日、韓国のインチョン(仁川)で、世界の平均気温上昇が1.5度と2度ではどう違うかをまとめた「1.5度特別報告書」を発表した。パリでは同日、仁川のIPCC関係者がビデオ記者会見を行い、1.5度と2度では、穀物の収穫、干ばつ、消滅する生物の種の数などで大きな差があり、海面上昇で被害を受ける人口は1.5度では2度の場合よりも1千万人少ないと説明した。(パリ=羽生のり子)

IPCC第一作業部会のヴァレリー・マッソン=デルモット・共同議長

10月8日、IPCC第一作業部会のヴァレリー・マッソン=デルモット・共同議長がリアルタイムでビデオ記者会見を行ったあと、報告書作成に携わった科学者たちが補足説明をした。

IPCCは研究を行う団体ではなく、すでに発表された論文を取捨選択して検討し、総合判断を下す。科学者たちが出した報告書に参加国政府の代表がコメントをし、最終的に政府が受け入れたものが公表される。

マッソン=デルモット氏は、報告書の4つの重要な側面を説明した。1つ目は全体像だ。「産業革命前に比べると、人間の活動のせいで地球は温暖化して1度上昇しており、海面水位も上昇している。この調子でいけば2030年~2052年には1.5度上昇する。産業革命前から今日までたまった温室効果ガスが気候変動を誘発し続けるが、過去の温室効果ガスだけでは1.5度に達しないだろう。今後の排出量が問題だ」。

2番目は、予想されるリスクについてで、1.5度と2度の上昇の違いを説明した。「最新の知見で、少しの温度差で何が違うががわかってきた。1.5度と2度では大きく違うので、1.5度の上昇にとどまることが非常に大切だ。2100年の海面は、2度に比べ1.5度の上昇では10センチ低く、被害を受ける人口は1千万人少ない。また2度に比べ、1.5度では水不足の影響を受ける人口が50パーセント減る。イネ、麦などの穀物の収穫高減も2度の場合より少ない」。2度では農業、漁業の経済的リスクが高まり、2050年に数億人が貧困に陥る。

ロラン・セフェリアン氏

3番目は、どのように1.5度に抑えるかで、そのためには、人間の活動で出る二酸化炭素排出を2030年には2010年比で45パーセント抑え、2050年には実質ゼロにしなければならない。しかし、2030年に20パーセント減、2075年に実質ゼロなら、2度上昇する。

4番目は具体策で、1.5度に抑えるためには脱炭素化に向けて全分野で大きく投資を増やし、生活様式を変え、テクノロジーを使わなければならない。「1.5度に抑えるのは不可能ではないが、かつてなかったほど大きな転換が必要」とマッソン=デルモット氏は強調した。

ビデオ記者会見後の報告書共著者たちの討論会では、仏気象台の研究者、ロラン・セフェリアン氏が「経済学、気象学など異分野の研究者が集まって報告書を書いたのはIPCC始まって以来」と今回の報告書の特性を話した。

記者会見に登壇したヴォルフガング・クラマー氏(右)ら

その理由を「陸・海の生物の多様性とエコロジーの地中海研究所(IMBE)」研究者のウォルフガング・クラマー氏が「パリ協定締約国から要望されたから。2度上昇とは何を意味するのか、温暖化抑制は実現可能なのか、など具体的に知りたいと言われた」と補足した。ヨーロッパ各国政府は目標を宣言しても、対策が追いついていない、という指摘も共著者たちから出た。

なぜ対策ができていないのか、何をすべきかは、記者会見後半で国際NGOフランス支部の事務局長たちが詳しく述べた。これは続編として別稿で紹介する。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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