原田勝広の視点焦点:脱「お笑い」被災地で奮闘9年

原田勝広
オルタナ論説委員

東日本大震災から間もなく9年を迎えます。当時、明治学院大学教授で大学のボランティアセンターのセンター長をしていた私も直後の4月4日には学生とともに現地に入り支援活動を行いました。被災地は多くのものを失いました。それはかけがえのない命だったり、思い出だったりしますが、逆に何か新しいものも得たような気もします。いろいろあるでしょうが、忘れてならないのは地域外の人とのつながりではないでしょうか。今も現地に入って引き続き頑張っている人たちがたくさんいます。(オルタナ論説委員・原田勝広)

富山泰庸さんもそのひとり。被災当時、ボランティアやNGO、NPO、さらには企業の人たち、そして研究者などが現地に駆け付けましたが、富山さんはちょっと変わり種かもしれません。なんと言っても、お笑いコンビ「大蛇が村にやってきた」として、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに所属していたお笑い芸人だったのですから。

なんだ、お笑いの人気取りかなんて思わないでください。この人、「世の中をなんとか変えたい。若者に一番に影響力があるのは吉本だ」という動機でお笑いを志したというから只者ではありません。大変な高学歴で、米国の名門ボストン大学を出た後、英国オックスフォ-ド大学の大学院と米国ペンシルベニア大学の大学院を卒業したそうです。

もともと、日本の最重要な社会課題のひとつは健康・医療というのが持論で勉強会を開いており、これが被災地支援で役立ったと言います。

震災後すぐに、岩手県陸前高田に入り、物資の運搬や船の手配、炊き出しなどで大忙し。それが一段落したところで気づいたのは薬がなくて困っている人たちがいっぱいいること。持病があって薬を飲まなくてはいけないが、流されてしまって手元にないのです。薬を出してくれるはずの薬局自体が津波に呑みこまれ、市内に2つしか残らなかったそうです。現地に入っていなければ、見落としていた切実なニーズです。

富山さんは、緊急事態に際し、勉強会のコネで栄養剤のエンシュアをオーストラリアから取り寄せたりしていましたが、その時、薬剤師が「私たちも手伝うから何とか薬局をつくれないか」と言い出しました。それはいい考えだね、そう気軽に答えてはみたものの、薬局をつくるには仮設でも1600万円はかかるとわかり愕然としました。

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原田勝広
オルタナ論説委員
日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門は国連、CSR, ESG・SDGs論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』など多数。

2020年2月26日(水)9:00

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