企業に求められる水の情報開示――下田屋毅の欧州CSR最前線(18)

「国連CEOウォーター・マンデート」は今年8月、「コーポレート・ウォーター・ディスクロジャー・ガイドライン」を発表した。このガイドラインは、企業向けに、水に関する情報開示を共通化する世界で最初のアプローチとして、企業にフレームワークを提供することで、より包括的に、より簡潔で実務的な方法で実施することを促すものである。

この新しいガイドラインは、パシフィック・インスティチュート、PWC、グローバル・リポーティング・イニシアチブ(GRI)、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)、世界資源研究所(WRI)などと共に開発された。

「コーポレート・ウォーター・ディスクロジャー・ガイドライン」のフレームワークは次の3つの分野から成り立っている。

1.企業の水に関するプロフィール
企業の水資源との関係、水に関するパフォーマンス、水のリスク、影響、対応、戦略などに関することの概要。

2.企業の水に関する報告内容の定義
企業が、報告書の水関連の内容をどのように決定したか、そのプロセスの記述。

3.企業の水に関するマネジメントの詳細な開示
具体的で詳細な基準、企業のウォーター・マネジメントに関連する質的情報、企業が導入しているウォーター・マネジメント・プログラムやプロジェクトの詳細の開示。

このガイドラインが発行された背景には、企業の水の使用と情報開示の重要性の高まりがある。近年、世界的に企業は基本的な水への対処方法を変えてきているとされる。

企業は、水関連のリスクと影響を軽減するための方法として、水使用効率の良いテクノロジーへの投資、企業責任として持続可能な水の使用を促すことをサプライヤーと協働すること、水洗浄機や水使用効率の良い製品を紹介すること、そして、企業の敷地外の持続可能なウォーター・マネジメントを促進させることを実施している。

こうした活動と同時に、企業の水の情報開示は、企業のウォーター・マネジメント実践の主要な内容として重要さが増している。企業が水の情報開示に関心を寄せる背景として、英国のNGOであるカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)の影響もある。

CDPは、CO2の排出量に関する情報開示を企業に求めるとともに、気候変動が降水量を変化させ、水資源にも影響を及ぼすとして、近年、水に関する情報開示「CDPウォーター・ディスクロージャー」を企業に求め始め、その数を拡大してきている。

今回の「コーポレート・ウォーター・ディスクロジャー・ガイドライン」を発行し、水の情報開示を推進している「国連CEOウォーター・マンデート」とは、国連グローバル・コンパクトのCEOレベルの企業同盟で、企業における持続可能な水資源管理のベストプラクティスにより推進することを目的に2007年に設立され、現在85社が加盟、企業数は年々増加している。

今年3月、食糧需要の増加と気候変動によって世界各地で水不足が発生し、年々深刻化していると国連「世界水発展報告書」でも伝えている。この水資源の地域による不均衡は、企業の生産活動やサービスの提供にも影響を及ぼす恐れがあり、水を企業がどのように管理するかが、世界的に大変重要な位置付けになってきている。今や水の問題は企業リスクとして経営に関係する問題なのだ。(在ロンドンCSRコンサルタント・下田屋毅)

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下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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