記事のポイント
- SDGs中間年、全体の目標達成率は15%どまり
- 政治宣言、途上国支援へコベネフィット・アプローチを強化
- 後継枠組み、サプライチェーン抜本改革に向け「10か年計画」へ
国連総会の首脳級会合は9月24日、さまざまな課題を残して閉会した。持続可能な開発目標(SDGs)の折り返し年にあたる現在、169にのぼるターゲットの達成率は15%どまり。グテーレス事務総長が「危機的状況にある」との懸念を表明し、政治宣言が全会一致で採択された。各ターゲットの達成に向け、相乗効果を挙げていく「コベネフィット」に注目し、開発途上国の支援強化のためにはサプライチェーンの抜本改革が必要だと強調した。会合で挙がった課題は何だったのか、そして2030年以降の後継枠組みについて何が話し合われたのか――を探ってみた。(ニューヨーク・古市裕子)
169のターゲットの達成率が15%という現実は、改革の効果が限定的で、政策と実行が言説的なものにとどまっていることを露呈した格好だ。
ミレニアル開発目標(MDGs)の反省を踏まえてSDGsが策定されたのは、様々なステークホルダーの関与と相互協力が不可欠だという認識だった。
今回の首脳級会合では、政府の政策介入の脆弱さと遂行意志の欠落が問題だとする指摘とともに、改めて各国政府、企業、ステークホルダー、国民の意識と相互協力が必要不可欠だとの認識で一致した。
「私たちは、持続可能な経済とビジネスへの移行のため消費と生産の流通パターンを根本的に変革する」――グテーレス事務総長は、SDGsの進捗に危機感をあらわにしつつ、こうした見解を示した。
また、デニス・フランシス議長は「私たちは、民間セクター、市民社会、女性、若者、科学者、学者、慈善財団、あらゆる分野のステークホルダーが声を上げ、手を差し伸べることで、人々の生活と地球環境にSDGs効果をもたらす流通プロセスを確保する必要がある」と語った。
採択された政治宣言では、①途上国への資金援助の公約、②毎年5000億ドルの刺激策、③効果的な債務救済メガニズムの提案、④再生可能エネルギーへの投資促進、⑤すべての人のインターネット接続と教育普及、⑥失業者数億人へのディーセントジョブ(働きがいのある人間らしい仕事)の創出――が盛り込まれた。
総会前には、有識者が参加して関連イベント「UN SDGs Beyond Agenda 2030」が開かれた。パネリストに、国連開発計画(UNDP)チーフ・テクニカル・アドバイザーのリカルド・ゴディーニョ・ゴメス氏、世界開発センター・シニアフェローのマーク・ローコック氏、フィジー国会副議長のレノーラ・ケレケレタブア氏らが参加した。
特にSDGs進捗状況を踏まえ、向こう7年と2030年以後のSDGs後継フレームワークが議論となった。
パネリストらは、真のSDGs目標の達成に限界があるのは途上国を巻き込む「コベネフィット」を置き去りにしているからだとの見解を示した。特に資源不足、サプライチェーンの不透明さが進捗を妨げていると強調した。
UNDPのゴメス氏は、政府が果たす役割の重要性を指摘した。その上で各国政府の機能を強化し、政府公約の達成に向けた政策実行と責任を追及すべきだと述べた。
世界開発センターのローコック氏は、今後15年間でSDGs進歩速度を左右するものとして3つの要素を挙げた。第1にテクノロジーのコントロールが大きな原動力になる、第2に気候変動への取り組み、そして第3に、国民行動の重要性だということだった。
首脳級会合では、2030年までの向こう7年間と2030年以降の後継枠組みである「10か年計画」に関して、SDGs目標と効果を再定義するために、まず先進国と途上国の格差とニーズの違いを再検証し理解することだとした。
企業をはじめとした様々なステークホルダー、国民全体の理解と認知向上が優先課題であり、抜本的改革を促進するためグローバルなガバナンス・アプローチが重要との方針も強調された。
以上を踏まえると、今後の行動計画として、国連や加盟国は、先進国からの途上国支援へのコベネフィット・アプローチを強化することになる。
SDGsの各目標の相乗効果を狙い、国際社会全体の達成度を底上げし、同時に経済や企業活動を持続可能なモデルに作り変えるためには、製造から消費までのサプライチェーンをより透明性の高いものに転換することが課題といえる。