三井住友銀行とシティなど米4行、「エクエーター原則」脱退

記事のポイント


  1. 三井住友銀行や米大手4銀行は「エクエーター原則」からの脱退を表明した
  2. 米国内での反ESGキャンペーンの「圧力」とみられる
  3. 三井住友銀行に対しては環境NGO5団体が抗議声明を出した

三井住友銀行やシティなど米大手4行は3月6日、「エクエーター原則」からの脱退を表明した。同原則は、金融業界の「自主的ガイドライン」だが、国連PRI(国連責任原則)にも大きな影響を与えるなど、サステナブル金融における象徴的な存在だ。一方、5行離脱の背景には、米国で強まる「反ESG」の圧力があるとみられる。この事態に環境NGO5団体が早速、緊急の抗議声明を出した。(オルタナ編集長・森 摂、オルタナ総研フェロー・室井孝之)

エクエーター原則から離脱したのは、三井住友銀行のほか、シティ、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ、JPモルガン・チェースの米大手4行。

同原則は2003年、シティグループや英バークレイズ銀行などが中心になって成立した。金融業界の「自主的ガイドライン」であるものの、2006年に成立した国連PRI(国連責任投資原則)にも大きな影響を与えるなど、「サステナブル(持続可能な金融」における象徴的な存在だ。

エクエーター原則は「ESGの原点」

国連PRIからはESG(環境・社会・ガバナンス)の概念も生まれており、極言すれば、エクエーター原則は、「ESGの原点」のような存在とも言える。

エクエーター原則の名称は、「北半球・南半球を問わず、グローバルに適用する原則」という意味を込めた。動詞としてのエクエイト(equate)には「基準に合わせる」という意味もある。

国内の金融機関では、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行、農林中央金庫、日本生命、SBI新生銀行、信金中央金庫、日本政策投資銀行が加盟している。

同原則は、石油・ガスや鉱山の開発、発電所やダム、工場などの建設といった大規模開発プロジェクトへの融資の際に、環境・社会リスクを評価管理するよう求めるもの。

具体的には、「環境・社会アセスメント」「ステークホルダー・エンゲージメント」「苦情処理メカニズム」「情報開示と透明性」など10の原則から成り立つ。

オルタナ編集部は、三井住友銀行に脱退した理由と再加盟の条件などを聞いた。同行広報部の回答は下記の通り。

「今回、同原則を運営するエクエーター原則協会の組織再編に伴い、現時点でエクエーター原則協会メンバーでないことは事実です。将来、メンバーとなる可能性はあるが、現時点ではこれ以上のコメントは差し控えさせていただきます。 なお、サステナビリティ実現に向けた三井住友銀行のコミットメントに変更はなく、エクエーター原則が長年に渡り多くの金融機関によって支持されてきた信用力あるガイドラインである点は理解しております。 今後もエクエーター原則における理念を尊重しつつ環境社会リスク評価を実施していく予定としております」

国際NGO、加盟する邦銀に脱退しないよう求める

国際環境NGO 350.org Japan、気候ネットワークなど5団体は6日、「三井住友銀行のエクエーター原則脱退に関する緊急抗議声明」を出した。

三井住友銀行はエクエーター原則からの離脱を発表した一方で、今も同行サイトでは「エクエーター原則の理念を尊重しつつ、環境社会リスク評価を実施し、評価結果をリスク管理プロセスに反映しております」と記載している。

NGO5団体は声明の中で、「同行がエクエーター原則を今後も遵守するかどうかは明確ではない。同行は、エクエーター原則を適用した事業について、毎年、情報公開を行ってきたが、同行が情報公開を継続するかどうか明らかではない」とした。

さらに、「同行などエクエーター原則加盟金融機関は同原則を必ずしも遵守してきたわけではない。石炭火力発電事業やガス採掘など、多くの事業で甚大な環境・社会・人権への負の影響が確認されてきた」とも声明では伝えている。

三井住友銀行に対してはエクエーター原則への再加盟を、加盟する他の邦銀に対しては、脱退しないことを要求した。

みずほ銀行の「エクエーター原則への取り組み」

一方、みずほ銀行はエクエーター原則を尊重する姿勢をウェブサイトで公表している。
(ここから引用)
みずほ銀行は責任ある投融資等に向けた取り組みの一環として、エクエーター原則を採択しています。エクエーター原則とは、金融機関が大規模な開発や建設を伴うプロジェクトに参加する場合に、当該プロジェクトが自然環境や地域社会に与える影響に十分配慮して実施されることを確認するための枠組みです。

みずほ銀行(旧みずほコーポレート銀行)は、2003年にアジアの金融機関として初めてエクエーター原則を採択しました。

みずほ銀行は、世界10社で組織される運営委員会のメンバーであるアジア・オセアニア地域代表を長年務めてきました。また2014年にはアジアの金融機関で初めてエクエーター原則協会の議長銀行を務めるなど、リーダーシップを発揮しています。

同原則に基づいた環境・社会デューデリジェンスを行うことで、融資先を含めた関係者・事業者への環境・社会リスクに関する理解と対策を促進し、金融機関の投融資に伴う社会的責任として、「資金の流れ」を環境・社会配慮の実現に向けることができると考えています。(引用終わり)

先住民族の生活を脅かしたダム建設が設立のきっかけ

エクエーター原則設立のきっかけは、1980年代インド中西部のナルマダ川でのダム建設、サルダル・サロバル・プロジェクトだ。

下流地域に電力と灌漑用水を供給するため、上流地域の先住民族20万人以上に十分な補償もなく立ち退かせ、彼らの生活を破壊し、国際的に厳しい批判を浴びた。

脱退した米4行は、脱退した理由について、「プロジェクト関連融資の環境・社会リスク評価に最善を尽くす意思に変わりはない」(シティ)とした。リスク管理の自主的な強化を継続するとコメントした。

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室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

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キーワード: #脱炭素

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