「紀伊山地の霊場と参詣道」は今年7月、世界遺産登録10周年を迎える。日本各地の世界遺産登録地で観光地化による環境負荷の高まりと言った問題が指摘されるなか、紀伊山地の熊野古道は、登録以前の姿を保ち続けている。逆に登録前よりもいにしえの姿を取り戻した場所さえある。その背景には、和歌山県が編み出した歴史的な伝統に基づく環境保全策があった。
■ 観光客が増えても、高野・熊野の参詣道が荒れない理由
記紀の時代に自然崇拝の地となり、「吉野・大峯」、「熊野三山」、「高野山」の三大山岳霊場と、それらを結ぶ参詣道が形成されてきた紀伊半島。2004年7月には、自然と人とが深く関わりながら形成してきた文化的な景観が現在でも良好な形で伝えられていることから、「紀伊山地の霊場と参詣道」として、世界文化遺産に登録された。
世界遺産への登録後、観光客が増えた登録地は多い。熊野古道などが知られる和歌山県も例外ではない。多くの人が歩けば土の参詣道は崩れる。しかも紀伊山地は年間3000mm以上もの雨が降り、大雨時の参詣道は川のようになる。
ところが和歌山県内の参詣道は、観光客の増加によって古道の荒廃に拍車がかかるようなことはなかった。
「もともと地域にとっては物流や、愛着のある生活道でした。さらに祈りの道だったという文化的な背景もあり、地域の人たちは参詣道を守ろうという強い意識を持ちながら清掃や補修を行ってきたんです。さらに修行で歩く人も手入れに参加してきました」
こう話すのは、世界遺産の保全にも関わる和歌山県観光振興課の山西毅治課長だ。世界遺産への登録後は地元の保護意識がより高まり、崩れればすぐに補修に行くようになったという。