宇沢弘文氏の「社会的共通資本」とサステナ経営

記事のポイント


  1. 今年のノーベル経済学賞はマサチューセッツ工科大学教授ら3人に決まった
  2. かつて「日本人で最も経済学賞に近い」とされた人がいた。宇沢弘文氏だ
  3.  宇沢氏が提唱した「社会的共通資本」とサステナ経営は親和性がある

かつて日本人としてノーベル経済学賞に最も近いと言われた日本人経済学者がいました。元東京大学名誉教授の宇沢弘文氏(1928~2014)です。世界的な資本主義見直しの思潮の中で、宇沢氏が提唱した「社会的共通資本」は企業や投資家に有益な視座を提供しています。持続的な社会の発展と中長期の企業価値向上の両立に向けて、企業や投資家は「社会的共通資本」に学び、その理念を実践に移すことが求められています。サステナ経営とも親和性があります。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

■なぜ宇沢氏はノーベル経済学賞を取れなかったのか

10月14日、今年のノーベル経済学賞の受賞者が発表されました。米マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授とサイモン・ジョンソン教授、シカゴ大学のジェームズ・ロビンソン教授の3人が選ばれました。授賞理由は「制度がどのように形成され、国家の繁栄に影響を与えるかの研究」です。

3人の研究者は、包摂的な制度が経済成長に寄与し、収奪的な制度が成長を妨げることを明らかにしました。

スウェーデン王立科学アカデミーは、「受賞者たちの研究は、経済学と政治学の両分野で継続して行われている研究に決定的な影響を与えた」として、「民主主義と包摂的な制度が経済発展を促進する上で重要な役割を果たしている」と指摘しています。

ノーベル経済学賞は1969年に創設されました。これまで日本人が選ばれたことは一度もありません。日本人としてノーベル経済学賞に最も近かったとされるのが、2014年に死去した宇沢弘文・元東大名誉教授です。

9月2日付の日経新聞に「宇沢弘文没後10年 ESGから見る社会的共通資本」と題する記事が掲載されました。

宇沢氏は、米国のスタンフォード大学やシカゴ大学を拠点とし、経済成長や消費者の行動を数学的な方法で分析する数理経済学の分野で優れた業績を挙げました。しかし、主流派経済学が市場メカニズムだけで全ての社会問題を解決しようとする立場に対して、次第に懸念を抱くようになりました。

その結果、1968年に米国から日本に帰国後、環境・社会運動に傾倒し、主流派経済学に批判的となったことが受賞を難しくしたともいわれています。

■宇沢氏が提唱した「社会的共通資本」は2000年に体系化
■1974年に「自動車の社会的費用」を可視化していた
■社会的共通資本は「インパクト加重会計」にも共通する
■社会的共通資本を提唱した日本人経済学者に思いを馳せて
■「社会的共通資本」を世に問うてからすでに半世紀

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遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #サステナビリティ

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