JTB、国際認証取得でサステナブルツーリズムを日本でも拡大へ

記事のポイント


  1. JTBはサステナブルツーリズムの国際標準「GSTC認証」を取得した
  2. 楽しいだけでなく、サステナブルな視点で意義深い旅行体験を提案する
  3. オーバーツーリズムなどの解決を図りながら、サステナブル観光の普及に努める

JTBはこのほど、サステナブルツーリズムの国際基準である「GSTC認証」を取得した。これは、独立した国際組織のグローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)が策定するサステナブルな旅行・観光の国際基準を満たした宿泊施設や旅行会社、観光地を認証するものだ。日本の大手旅行会社がサステナブルツーリズムの普及・拡大に向けて動くことで、オーバーツーリズムや観光による排出量の増加など、観光業界の課題解決に向けた動きが加速することが期待できる。(オルタナ副編集長=北村佳代子)

JTBはサステナブルツーリズムの国際標準「GSTC認証」を取得した

JTBが認証を取得したのは、個人向け国内ツアーの領域だ。日本の旅行会社による「GSTC認証」の取得は、2022年取得のトリコラージュ(東京・渋谷)に続き、JTBが2社目となる。

■サステナビリティツーリズムの国際標準「GTSC認証」

GSTCは、持続可能な観光慣行の理解・促進を目的に、2007年に結成した。国連環境計画、国連財団、国連世界観光機関、レインフォレスト・アライアンスなどがパートナー団体として名を連ねる。

GSTCには、日本航空や札幌市など、観光に力を入れる日本企業や団体も多く加盟する。しかし加盟団体になることと、「GSTC認証」を取得するのとは、別の話だ。

GSTCの重視する「持続可能な経営」「社会経済の持続可能性」「文化の持続可能性」「環境の持続可能性」の4つの柱について深く理解し、定められた基準を満たした団体がGSTC認証を取得できる。

JTBグループ本社サステナビリティチームの大森真美子サステナビリティ担当マネージャーは、「GSTC認証」を取得する旅行会社で旅の手配をすることで、「単に楽しいだけの旅行ではなく、サステナビリティの観点で、より意義深い旅行を体験することができる」と説明する。

例えば、CO2排出量の削減や廃棄物管理など、環境負荷を低減する環境に配慮した旅行プランや、地域経済への還元を考慮した旅行プラン、観光地の自然や地域文化や伝統の保護・促進に配慮した観光体験や、エコツーリズムなどの環境の教育的要素を含めたプランが該当する。

環境面だけでなく、労働条件や人権に配慮したサプライチェーンの選択・構築にも取り組む。大森マネージャーは、「お客様が観光地のサステナビリティにも貢献することは、将来にわたって魅力的な旅行先を維持することにもつながる」と意義を語った。

■サステナブルツーリズムの普及・拡大に期待

観光庁によると、2023年の国内旅行消費額は21.9兆円、訪日外国人による旅行消費額は5.3兆円に上った。これらの合計消費額は、コロナ禍前の2019年の水準を上回った。

一方、観光需要の回復を背景に、世界で観光業による温室効果ガス(GHG)の排出量が急拡大しているとの指摘もある。なかでも日本は、旺盛なインバウンド需要もあいまって、観光セクターの国別排出量は世界で6番目に多い。

参考記事:観光業の全世界GHG排出は、全業界の2倍の速さで拡大

そのような中で、大手旅行会社のJTBがGSTC認証を取得したことは「喜ばしい」と、立命館アジア太平洋大学(APU)サステナビリティ観光学部のトマス・ジョーンズ教授はコメントする。

「GSTC認証」はさまざまなプラスの影響を観光セクターにもたらすとジョーンズ教授は言う。

廃棄物や水、エネルギーなどのより効率的な管理を通じて、サステナビリティの取り組みが高い水準にあることを第三者機関が保証することで、GSTC認証団体の信頼性が向上する。

GSTC認証団体は、そうした独立機関による認証取得を重視する環境意識の高い旅行客からのレビューや評価が高まるほか、環境や地域社会に対して同じような考え方を共有する複数のGSTC認証団体が連携することで、サステナブルツーリズムの普及・拡大を後押しする効果があるという。

■「サステナブル観光」を軸に連携を深める

JTBの大森マネージャーは、「今回の認証の範囲は個人向け国内ツアーだが、JTBが持続可能な観光の管理システムを保持し、持続可能な責任ある運営が行われていることを保証するものだ。企業や学校のお客様、または地域・自治体といったB2Bの視点でも、(この認証取得が)生かされることは間違いない」とコメントした。

世界的に、サステナブルツーリズムの動きは欧州で先行しているが、インバウンド需要の増す日本でも、今後ますますサステナブルツーリズムの必要性が増すことが予想される。大森マネージャーは、「サステナブルツーリズムは1社で推進できるものではなく、パートナーシップが重要だ」と力をこめた。

■「GSTC認証取得はゴールではなくスタート」

JTBはこれまで、旅行者の訪問機会の拡大を通じて、地域経済への発展に貢献してきた。

「しかしその一方で、オーバーツーリズム等によって、地域や環境への負荷も発生している。今後は、環境や地域の負荷を減らすツアーやソリューションを増やすと同時に、環境について地域との相互理解の場や機会も増やしていく」(大森マネージャー)

「お客様、そしてパートナーに向けたサステナブルツーリズムに関する啓発活動を強化し、業界全体でサステナビリティ推進のための取り組みを進める。日本全体でサステナブルツーリズムの重要性が広く認識されることを目指す。認証取得はゴールではなくスタートだ」(同)

JTBのサステナビリティの取り組み(イメージ)
訪問先や旅行客とのサステナブルな交流を通して、
「人々の心豊かなくらし」と「人々の取り巻く環境」を良くしていく
北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #サステナビリティ

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