CSV/シェアード・バリューの進化【世界を変えるCSV 戦略】

次の「競争優位のCSR 戦略」では、CSR の現状についての課題を示した上で、「内から外への影響」、すなわち企業のバリューチェーン内の活動が社会に及ぼす影響と、「外から内への影響」、すなわち外部の社会状況が企業に及ぼす影響の視点から、戦略的にCSR を推進する考え方を示しています。

大まかに言って、「内から外への影響」に戦略的に対応するのが、「バリューチェーンのCSV」であり、「外から内への影響」に戦略的に対応するのが「クラスター/競争基盤のCSV」です。ここで、ネスレのサプライヤー育成の事例などを紹介しながら、「バリューチェーンのCSV」が加わっています。

そして、2011年のCSV論文で、3つのアプローチと事例が紹介されています。ここで、「製品・サービスのCSV」が加わっています。

実際に企業においてCSV 活動を推進する上でも、「クラスター/競争基盤のCSV」→「バリューチェーンのCSV」→「製品・サービスのCSV」の順番で検討するのが、取り組みやすいかも知れません。

■日本企業が持つCSV のポテンシャル
企業の現在の社会貢献活動は、戦略的に実施されているとは言えません。大企業になると数億、数十億を社会貢献活動に支出していますが、これをクラスター/競争基盤強化のための活動に活用することは、かなりインパクトがあると思います。すぐにでも検討すべきものでしょう。

バリューチェーンのCSV についても資源利用の効率化、廃棄物の有効活用、従業員の生産性向上など、すぐに取り組めるものもありますので実施しやすいでしょう。製品・サービスのCSV は、新規事業創出と同様な取り組みが求められますが、一番成果を出すためのハードルが高いと思います。

私のコンサルタントの仕事でも、社会貢献活動の見直しについての依頼は増えています。CSV の取り組みとしては、ここが一番社内でも通りやすいのではないかと思います。
 
なお、最近海外では、「CSV」よりも「シェアード・バリュー」という呼び方のほうが、一般的になってきていますが、これも一つの進化なのかも知れません。個人的には、CSV をCSR と対比させて説明するよりも、まったく別のものと説明したほうが、理解しやすいのではないかと思っていますが、そのためには、「シェアード・バリュー」のほうが、CSR とは全く違う語感を持っているため、適当なのかも知れません。

CSV/シェアード・バリューは、今でも十分価値を創出することのできるフレームワークですが、今後、まだまだ進化していくでしょう。日本企業は、その進化を先導して世界に先んじるポテンシャルを十分持っていると思います。

【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/ サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。

(この記事は、株式会社オルタナが2013年9月5日に発行した「CSRmonthly 第12号」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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