激減と激増、島に生きる2種のトカゲ――私たちに身近な生物多様性(14)

三宅島では以前から、ネズミによる農作物の被害があり、駆除のためにイタチを放していた。島内で繁殖することのないよう、当初は、雌雄を同時に放すことはしてなかった。しかし、ある時、雌雄で放され、急激に増えたイタチは、ネズミよりも捕食しやすいオカダトカゲをほぼ絶滅させてしまった。その間、わずか10年余り。

同じように移入されたホンドイタチによると思われるオカダトカゲの激減は、八丈島や青ヶ島でもみられる。

オカダトカゲは、現在の伊豆半島が本州と陸続きになる前、伊豆諸島と一体の陸地だった頃に独自の種として進化したトカゲと考えられている。

伊豆半島周辺には、外見上、ニホントカゲによく似た亜種がいて、伊豆諸島でも大別して北部、三宅島、そして南部と3つのグループがあるとも聞く。生物多様性を形成する種や亜種の分化を考えていくときには大変貴重な生きものだ。しかし、その要の位置にいる三宅島のオカダトカゲは姿を消してしまった。

小笠原のグリーンアノール。この個体は、周囲の色合いに合わせて茶褐色系に変色している。グリーンアノールは、周囲の環境などに応じて体色を変えることから、アメリカカメレオンとも呼ばれる(環境省外来生物対策室 提供)
小笠原のグリーンアノール。この個体は、周囲の色合いに合わせて茶褐色系に変色している。グリーンアノールは、周囲の環境などに応じて体色を変えることから、アメリカカメレオンとも呼ばれる(環境省外来生物対策室 提供)

伊豆諸島をさらに南へ行った小笠原諸島の父島、母島では、ある意味、真逆のことが起きている。増えすぎた外来種のトカゲ、グリーンアノールが、固有の昆虫類などに甚大な影響を与え、世界自然遺産としての小笠原の価値をも揺るがしかねない深刻な事態なのだ。

グリーンアノールは、元々はフロリダなどを原産地とするトカゲだ。ペットとして、あるいは荷物にまぎれて、小笠原諸島に入ってきたと言われる。現在の生息数は、数百万匹。既に全面的な駆除は困難な状況のもと、トカゲが外から入れないよう区切った内部で徹底的な駆除を行い、その中で、固有の昆虫類などの繁殖を図ろうとする取組等もなされている。

ところがそのさなか、2013年3月に、従来いないとされていた兄島でも発見され、関係者に衝撃が走った。緊急の駆除と分布域の拡大防止策が講じられるも、未だ根絶には至らない。

父島、母島では既に生態系に組み込まれ、希少なオガサワラノスリ(ノスリの1亜種)などの重要な餌となっているという。そして野鳥が捕えてきたグリーンアノールを巣の周辺で取り逃がすことも、分布域拡大の一因ではないかとの推測もある。となると現在生息しない島々でも飛翔力のあるノスリが営巣できるような島は監視を怠ることができない。

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坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

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