日本政府は5月22日、CO2を回収・地中貯留するCCS(炭素回収・貯留)事業を制度化する「CCS事業法」を施行する。2030年までに民間事業者が事業を開始するため、事業許可や安全管理などのルールを整備する。政府はCCSを脱炭素の重要技術と位置づけるが、環境NGOなどからは「化石燃料依存の延命につながる」との批判も出ている。(オルタナ輪番編集長・吉田広子)
■国が「試掘権」「貯留権」を許可制で管理
CCSは、地下1000―3000mほどにある貯留層まで井戸を掘り、地中の圧力・温度を活用して CO2の体積を約300分の1まで圧縮して貯留する技術だ。
経済産業省は、貯留されたCO2は、「地下構造や砂岩層の隙間に閉じ込められ、さらに地層水への溶解、長期的には鉱物化などにより閉じ込めが進む。地中貯留の経過時間が長くなるほど、貯留は安定化へ向かう」と説明している。
政府は、製鉄、化学、セメントなど、電化や再エネ化だけでは排出削減が難しい産業で必要な技術だと位置付ける。政府は2030年までに年間600万〜1200万トンのCO2貯留を目標に掲げる。
CCS事業法では、CO2地下貯留事業を許可制とし、経済産業大臣が安全性や技術基準を監督する。事業終了後も長期モニタリングを義務付ける。海底下への貯留も想定し、漁業や海域利用との調整規定も盛り込んだ。
日本では現在、9つのCCS事業が先進プロジェクトとして進められている。その一つが、東京湾岸から九十九里沖まで千葉県を横断する「首都圏CCS事業」だ。
計画では、日本製鉄 君津製鉄所など東京湾岸の産業施設から排出されるCO2を回収し、パイプラインで千葉県内を輸送。木更津市、袖ケ浦市、市原市、長柄町、茂原市、白子町、九十九里町などを通過しながら、房総半島を横断して九十九里沖へ運び、海底下に圧入・貯留する構想だ。

(出典:令和6年度「先進的CCS事業の実施に係る調査」首都圏CCS事業の成果報告)
■環境NGO「CCSは化石燃料依存を固定化する技術」
一方で、環境NGOなどはCCS政策に強い懸念を示している。気候ネットワーク や FoE Japan などは、気候変動関連技術と人権への影響に関する国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の意見募集に対し、CCSが環境・社会・人権にもたらすリスクについて共同意見を提出した。
NGOは、CCSについて「化石燃料依存を固定化する技術」だと批判する。石炭火力やLNGなど高排出型インフラの延命につながり、再生可能エネルギーや省エネへの投資が後回しになり、化石燃料の段階的廃止を遅らせるリスクがあると指摘する。
特に「首都圏CCS事業」を巡っては、大量のCO2を地下に圧入することによる漏洩リスクや地震誘発リスク、海洋生態系への影響、海洋酸性化などを懸念する声が上がる。数十年から数世紀にわたる長期監視が必要となる可能性がある一方、事故や漏洩時の責任の所在も明確ではないと批判する。
NGOは、日本ではCCS事業に対して環境影響評価(アセスメント)が義務付けられていない点も問題視している。
さらに、住民参加や情報公開の不足も論点となっている。NGOは、首都圏CCS事業について「十分な住民説明や参加の機会が確保されないまま進められている」と主張する。パイプラインが通過する一部地域では説明会が開かれているものの、なぜ九十九里沖が試掘地点に選ばれたのか、試掘による環境影響をどう評価しているのかなどについては、十分な情報公開がないという。
■CO2の海外輸送は「炭素植民地主義」
さらに、日本政府は回収したCO2をマレーシアやインドネシア、オーストラリアなど海外へ輸送・貯留する構想も進めている。
これに対し、NGOは「炭素投棄」や「炭素植民地主義」にあたると批判する。CO2の越境輸送は、漏洩リスクや長期監視負担、海上輸送事故などのリスクを受け入れ国側へ転嫁する構図になりかねないという。
2024年4月時点では、日本政府機関や企業が、マレーシアやインドネシア、オーストラリアなどとの間で、CO2貯留事業の実現可能性を検討する協定を少なくとも15件締結している。NGOは、「数百年におよぶ管理責任を現実に担保できる法制度は存在しない」と主張する。
そもそもCCSは、回収設備、圧縮インフラ、パイプライン、液化輸送、圧入井、長期モニタリングなど巨大インフラを必要とし、コストが極めて高い。こうした費用の多くは公的資金によって支えられる見通しだ。
NGOは、「実績ある再生可能エネルギーや省エネ、電化への投資を優先すべきだ」と訴えた。



