熊本で生物多様性の国際会議、安易なオフセットよりまず「回避」を

「地球に優しい」が使えなくなるーーグリーンウォッシュという新たな企業リスク

記事のポイント


  1. 生物多様性を議論する国際会議が熊本市で開かれ、「熊本宣言」を発表した
  2. 同宣言では、安易なオフセットに頼る企業の行動を明確に批判した
  3. 自然資本に対しては「ミティゲーションヒエラルキー」を指針にすべきと強調

国際自然保護連合日本委員会などは7月14~15日、生物多様性をテーマにした国際会議を熊本市で開いた。最終日の15日には、自然資本の損失を食い止め、回復軌道に乗せる国際目標「ネイチャーポジティブ」実現への決意を表明した「熊本宣言」を発表した。熊本宣言では、すべての企業に対して、安易なオフセットに頼ることなく、自然資本への悪影響を最大減回避することを目指す「ミティゲーションヒエラルキー」の考え方を導入するように求めた。(オルタナ輪番編集長=池田真隆)

国際自然保護連合日本委員会などが主催した国際会議の名称は、「グローバル・ネイチャー・ポジティブ・サミット2026」。熊本市で開いたことで、「熊本国際会議」とも名付けた。環境省や農水省などが共催で、2日間で2725人が来場した。

カナダ・モントリオールで2022年12月に開いた国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組み(KMGBF)」を採択した。KMGBFでは、2030年までに「ネイチャーポジティブ」を国際目標として定めた。同目標は、自然損失を食い止め、反転させることを目指したものだ。

この国際目標の達成期限まで残り4年に迫るが、熊本国際会議では同目標の実現可能性について強い危機感を示した。最終日の15日には、ネイチャーポジティブ実現への決意を表明した「熊本宣言」を発表し、80以上の団体が同宣言に署名したという。

■「ミティゲーションヒエラルキー」を企業行動の根幹に

熊本宣言で、企業行動の根幹に置くべき考えとして強調したのが「ミティゲーションヒエラルキー」だ。ミティゲーションヒエラルキーとは、事業活動が生物多様性に与える悪影響を最小限に抑えるための意思決定フレームワークだ。優先度の高い順に以下の4段階からなる。

4段階のうち、最優先に置くのが、「回避」だ。生態学的に脆弱なエリアでの開発を避け、悪影響そのものを最初から発生させないことを重視する考えだ。

回避の次に優先するのが「最小化」だ。どうしても回避できない影響について、実施時期の調整などで、その規模や影響度合いを小さくすることを目指す考えだ。

最小化の次に優先するのが、「回復・復元」だ。事業によって、一時的に損なった現地の生態系を元の状態に修復することを目指す考えだ。

ミティゲーションヒエラルキーが最後の選択肢として提示するのが「相殺/オフセット」だ。「回避」「最小化」「回復・復元」の3ステップを尽くしても残ってしまう不可避の「残留影響」に対し、別の場所でそれと同等以上の保全活動を行うことでオフセットすることを最終手段として勧めた。

企業の環境活動において、「損失した分を他の地域で植林して補う」といった安易なオフセットが批判の対象となってきた。同宣言では、「まずは徹底して損失を避ける(回避する)」というプロセスをすべての企業に求めた。

最初から安易なオフセットに頼るのではなく、段階に沿った厳格なアプローチをとることが、ネイチャーポジティブ達成への最低条件として定義した。

熊本宣言の全文は下記の通り

熊本宣言
「ネイチャーポジティブな未来に向けた熊本の決意」
日本の熊本で開催された第 2 回グローバル・ネイチャーポジティブ・サミットに参加した我々は、昆明・モントリオール生物多様性枠組み(KMGBF)の使命に沿い、2020 年を基準として 2030 年までに自然の損失を食い止め、その傾向を逆転させ、2050 年までに完全な回復を達成するための行動を加速させる上で、間もなく開催される生物多様性条約第 17 回締約国会議(CBD COP17)が極めて緊急の課題であることを認識します。世界的な目標達成まで残りわずか 4 年となった今、国際的な合意から着実な行動へと移行するためには、政府、市民社会、先住民族および地域コミュニティ、企業、金融機関、市民、消費者を含む、社会を構成するすべての主体をつなぐ、かつてない「社会全体を巻き込んだアプローチ」が求められています。

熊本は、この取り組みにふさわしい舞台です。この地域は、自然が経済活動、地域住民の生活、食料安全保障、文化遺産、災害リスクの軽減、コミュニティのレジリエンスをいかに支えているかを深く理解しています。また、政府、企業、金融、社会セクターが連携して行動することで、地球と現在および将来の世代の人々にとって、ネイチャーポジティブな成果をもたらすことができることを示しています。例えば、地下水や河川流域の管理を通じて、この地域は、都市部、企業、農業コミュニティが連携し、生物多様性の重要な要素である共有の自然資源や生態学的プロセスを保全できることを実証しています。

ネイチャーポジティブな社会への移行がもたらす社会的・経済的メリットは明らかです。ネイチャーポジティブ経済への移行は、コストとしてではなく、投資として、かつ、持続可能な成長、レジリエンス、イノベーション、そして長期的な価値創造の機会として認識されるべきです。それは、人間の発展を包括的に促進し、地球システムの健全性と活力を維持するものです。

この目標を支援するため、「熊本・グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット」では、ネイチャーポジティブな未来を実現するためのいくつかの重要な要素を強調しました:
● KMGBF のビジョン、すなわち「2050 年までに、生物多様性が尊重され、保全・回復され、賢明に利用されることで、生態系サービスが維持され、健全な地球が保たれ、すべての人々にとって不可欠な恩恵がもたらされる」という理念、ならびに生物多様性の損失を食い止め、その減少傾向を逆転させるという 2030 年ミッション、およびそのゴールとターゲットを受け止めること
● 2026 年 2 月に発表された「生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の『ビジネスと生物多様性に評価報告書』の重要性を認識すること
● 日本政府の「生物多様性国家戦略 2023-2030:ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ」ならびに「ネイチャーポジティブ経済移行戦略 ~自然資本に基づく企業価値の創造~」を歓迎すること
● 生態系への悪影響を、まず回避・最小化し、次に劣化した陸域および海域の回復と再生に寄与し、最終的には回避できない影響を代償するとともに、高水準の十全性確保措置を講じるという、ミティゲーションヒエラルキーを適用することをすべての企業に対し求めること
● 政府、規制当局、企業、金融機関が、自然や自然の状態に対する企業のインパクトや依存を測定するために、標準化され、科学的根拠に基づくと同時に、実用的かつ意思決定に役立つ指標や手法をめぐって連携を図り、企業の行動を加速させること
● KMGBF 目標 15 で求められているように、自然関連課題に関する評価、目標設定、移行計画、および企業報告について、世界的に一貫した標準に基づくアプローチに向けて、市場全体の整合を図ること
● 自然資本を不可欠な資産であること、地球規模の気候・水・食料の安全保障、ならびに人間の健康と福祉を共に確保するためには、自然に根ざした解決策、循環型経済および脱炭素化の取り組みを統合しなければならないことを認識すること
● 自然と人間活動の調和のもとで自然を守るという日本の里山モデルによって体現されているように、気候変動と自然保全における取り組みが、地域社会の生計を守り向上させ、社会的公平性を促進し、周縁化されたコミュニティのエンパワーメントにつながる「公正な移行」を受け止めること

これらの重要な提言を認識し、私たちは、生物多様性条約(CBD)COP17 およびそれ以降のプロセスへの貢献、実施における成功事例や教訓の共有、そして共同行動の強化を通じて、本サミットの成果が「昆明モントリオール生物多様性枠組み(KMGBF)」のゴールとターゲットに向けた具体的な進展につながるよう取り組みます。「人々にポジティブな未来を実現する唯一の道は、ネイチャーポジティブな未来を築くこと」です。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #熊本宣言#自然資本

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