現地の子どもたちのことを考える時、忘れてならないことをひとつ指摘しておきたいと思います。誤解しがちなので気をつけてほしいのですが、彼らは可哀そうな子ではないということです。震災の翌年、2012年に東日本大震災・原発災害特集「破局の後を生きる」という特集を組んだ雑誌「世界」が手元にあります。岩手県釜石市の加藤孔子さんという当時53歳だった釜石小学校の職員さんがこんな内容の手記を寄せています。
―――下校時ばらばらだった釜石小学校の生徒184人は全員無事だった。自分の命を守っただけでなく、友達の命、おじいちゃんおばあちゃんの命、兄弟の命も守ってくれた。
「津波はここまで来ないから大丈夫」と言うおばあちゃんに「ばあちゃん、だめ、逃げなきゃだめ」と手を引いて逃げた三年生の子ども。地震直後に幼稚園の弟にジャンパーを着せて、「さあ、行くよ」と手を引っ張って避難場所に一緒に逃げた四年生の子ども。足の不自由な友達をおんぶして逃げた子ども。様々だった。
共通していたことは自分の命、家族の命、友達の命、みんなのかけがえのない命を守ろうと頑張ったこと。何が子どもたちの命を救ったのか、「釜石の奇跡」を生んだのは何かとよく聞かれる。それは子どもたちの心と地域の絆だと考える。
そして釜石小学校の校歌を紹介しています。
♪いきいき生きる いきいき生きる
ひとりで立って まっすぐ生きる
困ったときは 目をあげて
星を目当てに まっすぐ生きる
♪♪♪・・・・・
そんな被災地の子どもたちとハタチ基金を息長く応援したいものです。 (完)
◆原田勝広:オルタナ論説委員。日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門は国連、CSR, ESG・SDGs論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』など多数。