原田勝広の視点焦点:震災から10年、ハタチ基金の今

赤ちゃんが成人するまで

今年も「3・11」がやって来ます。あれから10年、多くのことが忘れ去られ、また、一方では多くのものが残されました。残った貴重な宝物のひとつ、公益社団法人「ハタチ基金」をご存じでしょうか? 失われた命の代償として人々の善意で生まれた被災地の子どもたちに寄り添うお金です。東日本大震災が発生した当時0歳だった赤ちゃんが、無事にハタチを迎えるその日まで、という願いを込めたネーミングです。

子どもたちに学べる場を提供するコラボ・スクール

発足当初は、ずいぶん気の長い支援だなと思いましたが、早くも半分の10年の折り返しを迎えました。そして、毎年、多くの寄付がよせられているのです。あの子どもたちは今どうしているのだろうと東北に思いを馳せる時、地に足を着けたこの基金への期待も高まります。

ハタチ基金はこれまでに現地の子供たちを支援するNPOに総額11億5千万円の助成を行ってきました。寄付者は個人と企業、団体合わせて年間で700件あるほか、毎月のマンスリーサポーター(毎月の継続寄付者)が1,900人もいます。

2020年度に8,291万円の助成が決まった主なNPOを紹介しましょう。

クーポン配布のチャンス・フォー・チルドレン

チャンス・フォー・チルドレン(CFC)はコロナ禍で教育格差が広がる被災地を何とか支えたいと思っている公益社団法人です。関係する生活困窮家庭を調査したところ、インターネットにアクセスできない子どもが4人に1人。パソコンやタブレットを持っていない家が2人に1人いました。臨時休校中にオンライン授業を受けられた子はなんと2割しかいませんでした。驚きの実態です。

教育の機会を増やすため、CFCは所得の低い家庭の子どもたちが塾や習い事などの教育に使えるスタディークーポン(バウチャー、1人年間15-30万円分)を配布していています。クーポンは全体で7,100万円分で、うち1,300万円がハタチ基金から助成されます。震災との因果関係ははっきりしませんが、宮城県は不登校率が全国1位です。

こういう子にはクーポンも行き渡りにくいため、児童相談所にもアプローチ、クーポンを家庭教師やフリースクールで使ってもらっています。ボランティアの大学生がサポートにつく手厚さです。今年度からクーポンの使用状況などがデジタル化され、支援しやすくなりました。クーポン方式を行政に取り入れる働きかけもしており、福島県・いわき市で導入する方針と聞きます。どんどん広がってほしいものですね。

放課後コラボ・スクールのカタリバ

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原田 勝広(オルタナ論説委員)

日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。サンパウロ特派員、ニューヨーク駐在を経て明治学院大学教授に就任。専門は国連、 ESG・SDGs論。NPO・NGO論。現在、湘南医療大学で教鞭をとる。著書は『国連機関でグローバルに生きる』など多数。執筆記事一覧

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