結婚プレゼントは年金

 泥酔してアパートへ帰った晩秋の夜、郵便受けに白い封筒を見つけた。ケイと頭取からの招待状だった。
 結婚披露宴は華やかだった。招待された友人の老人たちは嫉妬もあって、花嫁は孫みたいだ、条例違反じゃないかなどと品のないヤジを飛ばし、大盛り上がりだった。頭取は終始、緊張していた。ケイがチラッとこちらを見た時、八重歯に残る赤ワインの色が生々しかった。当然ながら新郎側の親族席はガラガラだった。
 しばらくケイのことは忘れていた。金に困らず、幸せならそれもいいと思えたのである。

 ブルブルと携帯が呼んでいる。懐かしいケイの声がした。
「久しぶりどずなぁ。達者どしたか。表参道まで飲みに来ひん?旦那、死んでもうたの。ちょい悲しいわ、ええ人やったのになあ」
「遺族年金があるから心配ないね」
「いや、もう絵が売れるようになったから、年金要らんわ」                      (完)

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希代 準郎

きだい・じゅんろう 作家。日常に潜む闇と、そこに展開する不安と共感の異境の世界を独自の文体で表現しているショートショートの新たな担い手。この短編小説の連載では、現代の様々な社会的課題に着目、そこにかかわる群像を通して生きる意味、生と死を考える。

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