泥酔してアパートへ帰った晩秋の夜、郵便受けに白い封筒を見つけた。ケイと頭取からの招待状だった。
結婚披露宴は華やかだった。招待された友人の老人たちは嫉妬もあって、花嫁は孫みたいだ、条例違反じゃないかなどと品のないヤジを飛ばし、大盛り上がりだった。頭取は終始、緊張していた。ケイがチラッとこちらを見た時、八重歯に残る赤ワインの色が生々しかった。当然ながら新郎側の親族席はガラガラだった。
しばらくケイのことは忘れていた。金に困らず、幸せならそれもいいと思えたのである。
ブルブルと携帯が呼んでいる。懐かしいケイの声がした。
「久しぶりどずなぁ。達者どしたか。表参道まで飲みに来ひん?旦那、死んでもうたの。ちょい悲しいわ、ええ人やったのになあ」
「遺族年金があるから心配ないね」
「いや、もう絵が売れるようになったから、年金要らんわ」 (完)