広葉樹が握る次世代の価値(3)
広葉樹は、これまで多様であるがゆえにコストがかかりビジネスになりませんでしたが、時代は変わりつつあります。飛騨市の「広葉樹のまちづくり」に関わる当事者が口々に「広葉樹は楽しい」と述べるその感性が、これからの時代の鍵になるかもしれません。シリーズの最後に、飛騨市主催の「広葉樹のまちづくりツアー」への参加から、森から製品になるまでのサプライチェーンの今を探りました。
森を育てる
広葉樹は太くなるまでに時間がかかり、針葉樹より多くの歳月(70~100年以上)が必要となります。広葉樹資源が豊富な飛騨市ですが、どの木を育成しどの木を切るかが、森を育てる際の最大のポイントとなります。
適度に伐採しなくては、育つべき木が大きくならないからです。この伐採された木が、活用すべき小径木です。針葉樹の間伐はルールが明確で、それに従って切ればいい。しかし、一本一本個性が異なり、樹種も多様な広葉樹は、見極める力が重要です。それができる人材がいるのが飛騨市の強みのひとつと言えます。
木をひく
「広葉樹のまちづくり」の要が、唯一の広葉樹専門の製材所である西野製材所です。隣の柳木材に集まった広葉樹の原木が運び込まれると、皮をはぎ、専用の機械で切断され、乾燥に入ります。
広葉樹は多様な樹木があるため扱いが難しいものの、まさに30年にわたりこの部分のノウハウの蓄積があるのが西野製材所の価値であり、逆に大量に簡単にできる針葉樹しか扱えない製材所の多くは生き残りが難しくなったと語る西野社長。西野氏は、「ひとつひとつ木が違う。最終製品を想像しながら、一本一本製材していくのが楽しい」と語っています。
場とコンシェルジュ
木材の利用方法を提案し、森と利用者をつなぐ事が、「広葉樹のまちづくり」の価値を決めます。その役割を担うのは飛騨市広葉樹活用コンシェルジュである及川幹氏です。「この時代、この地域に合った流通」をモットーとし、硬直的な既存の規格中心の流通から、ニーズに合った流通へとシフトしていく必要性を訴えています。
その為に、伐採されそのまま外部に流れていた原木を一度ストックヤードに集め、実際の木の使い手と対話しながら、用途開発していくプロセスを重視しています。
素材自体は差がなくても、ここで生み出されるストーリーに価値が生まれていきます。あくまで森に合わせながら、小径材から大径材まで提案し、バリューチェーン全体で密にコミュニケーションすることで、木材の可能性を広げて、実現していくのです。
職人の思いと技と結びつき、実現する価値連鎖
飛騨市の広葉樹を扱う飛騨職人工房の堅田氏は、「職人を育てる環境が飛騨にはある」と語ります。木工体験ワークショップの場を提供しつつ、「楽しさ」を重視してクラフトなどの創作活動をしています。
ワークショップでは、回転率を上げて儲ける事よりも、参加者が木ととことん向き合う時間を大切にします。そんな堅田氏にヒダクマから持ち込まれる仕事は、今までやったことのないようなチャレンジングなものが多いと言います。
そんな相談があると、堅田氏の創作魂が燃え上がり、培ってきた技や、多くの専門家との協力も得ながら、数々の難題をクリアしているのだとか。このような個性と、そのつながりで生まれる価値の連鎖が、「広葉樹のまちづくり」の最大の魅力ではないでしょうか。
「飛騨の森と、日本の森を、経済的にも環境的にも持続可能にしたい」とヒダクマの松本氏は語っていました。森に境界線はありません。この「広葉樹のまちづくり」には依然取り上げた飛騨産業やオークヴィレッジといった隣の高山の企業も参画しています。
飛騨市に本校が置かれる「飛騨高山大学」の設立も昨年発表されました。こうした機運の高まりを生かし、ぜひとも、この地域が一体となって、境界を超えた持続可能なまちづくり、森づくりを育み、世界にサステナブルな地域づくりの在り方を発信していって欲しいと願っています。