【連載】ESGアクティビズム最前線(5)

企業による政治家への働きかけが盛んな米・ワシントンDC @Architect of the Capitol

日本と比べ、企業や業界団体による政党・政治家への働きかけが盛んであると言われる米国。首都のワシントンDCでは、関係者どうしによる業界利権や利害調整をめぐり日々激しい議論が行われている。いっぽう、投資家が企業の政治関連支出に厳しい目を向ける事例も目立つようになってきた。(松木 耕)

この傾向に拍車をかけたのが、2021年1月に起きた米連邦議会議事堂の襲撃事件だ。バイデン氏が勝利をおさめた20年の大統領選の結果をめぐり、トランプ氏の支持者らが「選挙は盗まれた」と主張。議会の建物内部に乱入したのだ。

事件当時、危険を感じて議員事務所の洗面室で身を隠した民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員は後日インスタグラムの生配信で「暴力的で過去のトラウマを想起する光景だった」と涙ながらに当時の状況を振り返った。

米国の民主主義制度を揺るがしたこの事件について、一部の投資家は企業が支出した政治資金と事件を主導したトランプ氏の支持者による草の根運動に繋がりがないか、疑惑の目を向けはじめた。21年、ボストンに拠点を置く資産運用会社のゼビン・アセットマネジメントは米・大手小売ウォルマートに対し「ロビー活動の詳細と政治献金の使途」の開示を求める株主提案を提出した。

ゼビンのESG投資担当者は「ウォルマートのような企業は政策決定に大きな影響を持つ。間接的であれ、政治関連支出がトランプ氏を支持した草の根団体に関わっているのか、関わっていないのか明らかにすべきだ」と筆者に語った(この株主提案は21年6月の総会で22.1%の賛成比率に留まり否決)。

企業の政治支出を巡る議論が気候変動問題に及ぶ場合も少なくない。米東部の広範囲に路線を持ち、巨大鉄道会社として知られるノーフォーク・サザン。グリーンなイメージが強い鉄道会社だが、同社の場合は石炭など化石燃料の貨物輸送を収益の大きな柱としている。そのため、近年主流化しつつある「脱炭素」の議論を同社が不都合なものと捉えている可能性がある。

昨年、実際にノーフォーク・サザンが所属するアメリカ鉄道協会が、気候変動を否定すべく政治的な働きかけをしていた疑惑が浮上した。これに対して即座に動きを見せたのがフィラデルフィアに拠点を置くプロテスタント教派の資産運用会社、フレンズ・フィデューシャリーだ。

フレンズはノーフォーク・サザンに対し「気候変動に関するロビー活動と政治支出の詳細を開示すること」を求める内容の株主提案を提出。経営陣はこの議案に関して、株主に反対票を投じることを推奨したが、21年5月に開催された同社の総会で76.4%の賛成比率を獲得した。

フレンズ事務局長のパーキンス氏は「投資家団体のICCR(企業責任のインターフェイス・センター)などと連携して働きかけを行い、株主の賛成過半数を獲得できた。我々投資家は企業が責任ある行動ができるよう、リスクを知らせる炭鉱のカナリアのような存在であるべきだ」と語っている。

投資家の目が厳しくなるにつれて、企業も政治支出の使途に関する開示を充実する方向にカジを切っている。米・政治的説明責任センター(CPA)が21年12月に発表した『企業の政治的情報開示と説明責任 2021』によると、21年時点で取締役会が政治支出を監視する方針を持つS&P500企業は295社と、20年の259社から13.9%増加している。

投資家の動きについて詳しい関係者は「今年の春先にかけて、投資家が米国企業に対して政治支出の詳細開示を要求する事例は増えるだろう」と語る。気候変動対策に限らず、ESG全般について企業と政治の関係性を透明化する要求が高まっていることから、企業と投資家の対話が果たす役割にも大きな期待が集まっている。