アニマルウェルフェアに言及、変わる日本企業

【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス(16)

日本企業のアニマルウェルフェアへの対応力は世界と比べて大きく遅れを取っていることは事実だ。だが、数年前と比較すると、着実に対応力は上がってきた。かつては言及すらしていなかった企業が多い中で、味の素や日本ハム、日清食品などアニマルウェルフェアへの考え方を公表する大手企業が増えてきた。(認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事=岡田 千尋)

国内でも着々とアニマルウェルフェアに対する取り組みは進みつつある。この動きを後押ししているのは、ESG投資、消費者、市民の声、またその声をバックに企業への働きかけを行う私達のような動物保護団体、最近では消費者団体もこの動きに加わっている。

では、日本企業は自社サイトなどでアニマルウェルフェア向上にどのように言及しているのか、一部ではあるが、大手企業の状況を見てみよう。(2022年5月5日時点)

味の素味の素ではアニマルウェルフェアを検討するための有識者会議(ラウンドテーブル)を2020年から開催し、アニマルウェルフェアに関するグループポリシーを改定し、アニマルウェルフェアの5つの自由を明記し、アニマルウェルフェアの向上に取り組むことを明確にした。 具体的な目標設定は公表されていない点が次の課題である。
プリマハムプリマハムでは、アニマルウェルフェア対応の遅れ(世界と比較して)を課題と考え、2020年に重要課題としてアニマルウェルフェアを位置づけている。今後新設または改築する農場では妊娠ストールを使用しないことを明確にし、また分娩ストールについても可動式分娩ストールを導入し始めたことを明らかにしている。内容が公表されていないことが課題ではあるものの、飼養環境や飼養方法の自社基準の策定を行っているとしている。 妊娠ストールフリーについては目標年の設定がなされていない点が次の課題である。
日本ハム日本ハムでは、2021年にアニマルウェルフェアを重点課題として位置づけ、同年に具体的な目標設定を行った。この目標には、2030年に妊娠ストールフリーに移行すること、2023年にすべてのと畜場に飲水設備が配備されることなどが含まれた。その後アニマルウェルフェアの5つの自由を明記したアニマルウェルフェアポリシー、及び農場での基準となるアニマルウェルフェアガイドラインを策定し公開した。さらに2030年までに植物性タンパク質に由来する売上を100億円にするという目標も設定し、バランスの良いアニマルウェルフェアの取り組みに進み始めている。 肉用鶏のアニマルウェルフェアを具体的にどう改善するのかを示すことが次の課題である。
日清食品ホールディングス日清食品ホールディングスでは、持続可能な調達の方針の一部として畜産物のアニマルウェルフェアを明記。5つの自由を含め、また具体的には成鶏のと畜場での長時間放置を行っていないことを確認していることが明記された。また「動物性の素材を使用しないベジタリアン製品の発売や植物代替肉の使用を推進」することを明記している。 具体的な目標設定は公表されていない点が次の課題である。
日清製粉グループ日清製粉グループでは、2019年に策定されているサプライヤーの皆様へのお願いと題するサプライヤー・ガイドライン内倫理の項目に、動物福祉を「動物福祉を考慮し、動物に対する健全な取り扱い方法を採用するために努力する。」と規定。 具体的な目標設定は公表されていない点が次の課題である。
伊藤ハム米久ホールディングス伊藤ハム米久ホールディングスでは、重点課題としてアニマルウェルフェアを明記。 具体的な取り組み、具体的な目標設定は公表されていない点が次の課題である。
ニチレイニチレイでは鶏肉の飼育時のアニマルウェルフェアに一部配慮していることが明記されている。ただし飼育密度など具体的な数字が開示されていない。 企業の重点課題としてアニマルウェルフェアを位置づけるなど、企業としての取り組みに発展させることが求められる。
キユーピーキユーピーでは「鶏卵の調達に関する考え方と取り組み」としてアニマルウェルフェアの5つの自由を含む考え方を公表、ケージフリーへの取り組みも明記されている。 具体的な目標設定は公表されていない点が次の課題である。
明治ホールディングス明治ホールディングスでは酪農場向けのアニマルウェルフェアのポリシーを策定。 企業の重点課題としてアニマルウェルフェアを位置づけるなど、企業としての取り組みに発展させることや、加工食品大手として酪農場向けだけではないアニマルウェルフェアの調達ポリシーの策定が次の課題である。
セブン&アイ・ホールディングスセブン&アイ・ホールディングスでは、2022年にセブン&アイグループ持続可能な調達原則・方針に5つの自由を含む動物福祉を明記。トレーサビリティの確保、認証取得への意欲などが明記されている。 具体的な目標設定は公表されていない点が次の課題である

その他、アニマルウェルフェアに言及している大手企業は以下の通り。

  • ローソン
  • ファミリーマート
  • イオン
  • ゼンショーホールディングス
  • すかいらーくホールディングス
  • 日本マクドナルドホールディングス
  • 江崎グリコ
  • 日本水産
  • ヤクルト本社
  • 雪印メグミルク
  • 不二製油

数年前、オルタナが行った調査では、検討中の企業はあれどアニマルウェルフェアの考え方を公表している企業はなかった。日本はこの数年で変わったということだ。この動きを加速し、世界基準のアニマルウェルフェアに追いつき、評価を上げてほしいと願う。それがそれぞれの企業の未来の利益につながるのではないだろうか。

chihirookada

岡田 千尋(NPO法人アニマルライツセンター代表理事/オルタナ客員論説委員)

NPO法人アニマルライツセンター代表理事・日本エシカル推進協議会理事。2001年からアニマルライツセンターで調査、戦略立案などを担い、2003年から代表理事を務める。主に畜産動物のアニマルウェルフェア向上や動物性の食品や動物性の衣類素材の削減、ヴィーガンやエシカル消費の普及に取り組んでいる。【連載】アニマルウェルフェアのリスクとチャンス

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..