記事のポイント
- オルタナは「石灰石ペーパーはエコか」「LIMEX、容リ法ただ乗りの疑い」などの記事を本誌やオンラインで報じてきた
- TBMは、名誉棄損と営業妨害で被害を被ったとして、オルタナに6336万円の支払いを求める訴えを2021年4月5日、東京地裁に起こしていた
- 東京地裁は2022年9月28日、原告であるTBMの請求をすべて棄却する判決を出した
「LIMEX、容リ法ただ乗りの疑い」などと本誌・オンライン記事で報じたオルタナに対して、LIMEXの販売元であるTBM(東京・千代田、山崎敦義社長)が金銭の支払いや記事の削除を求めていた裁判で、東京地裁は2022年9月28日、原告であるTBMの請求をすべて棄却する判決を出した。(オルタナ編集部)

■「革命的新素材」は本当にエコだったのか
TBM社は2011年に創業し、2015年までに石灰石とプラスチック(ポリマー)を主成分とする「LIMEX(ライメックス)」を開発した。これを「革命的新素材」と形容し、「普通の紙のように木を切らないし、水も使わない」と、LIMEXがエコであり、SDGsの精神にも合致するかのような拡販方法を続けた。
これに対してオルタナは「石灰石ペーパーは本当にエコか」(本誌2019年12月発売号)などの記事で、
1) 石灰石は燃やせばCO2を出し、LIMEXにはさらに石油由来の樹脂が含まれるので、これも燃やせばCO2が出る
2)LIMEXペーパーは一般の人が普通の紙だと誤認し、古紙として捨ててしまうと、古紙リサイクルの過程において故障が起きる可能性がある
3)普通の紙をつくるために森林伐採をしても、再植林すれば再び木は成長し、カーボンニュートラルになり得る。しかし石灰石は採掘するだけなので、環境負荷は少なくない
――などの主張を展開してきた。
今回の訴訟では、「石灰石ペーパーLIMEXが『容リ法ただ乗り』の疑い」(オルタナオンライン2020年4月10日掲載)などの記事について、TBMが名誉棄損と営業妨害で被害を被ったとして、オルタナに6336万円の支払いを求める訴えを2021年4月5日、東京地裁に起こしていた。
記事では、アパレル小売り大手SPINNS(運営はヒューマンフォーラム)が取り扱っていたLIMEXレジ袋について、オルタナが外部の検査機関に委託した結果(重量%で、プラスチック<ポリマー>48.6%、炭酸カルシウム41.1%)に基づき、「石灰石が主成分といいながら、実際はプラスチック(ポリマー)が最大成分だった」と報じた。
さらに、「もしプラが最大成分なら、容器包装リサイクル法に基づき、リサイクル負担金を支払う義務が生じる。リサイクル負担金を支払わないでプラ製レジ袋を配布するのは容リ法ただ乗りの疑いがある」と指摘した。
■相当の理由があるかについては「主としてプラスチック製」との解釈も十分成り立つ
今回の判決一部要旨は次の通り。(※個人名は削除しました。一部の表現について、省略や置き換えをしました。一部の漢字は「ひらがな」に換えました)
1)本件執筆者らが同事実を信じたことについて相当の理由があるか否かについて検討すると、容器包装リサイクル法施行規則4条では、再商品化義務を発生させる容器包装について、「主としてプラスチック製」と規定するのみであり、その基準および検査方法は法令上明らかではなく、主要な構成素材すなわち構成する素材のうち質量分率が最大の素材がプラスチックであれば(すなわち、構成する素材のうち、どの単一の無機物の質量分率もプラスチックのそれを下回っていれば、仮に無機物の質量分率の合計が50%以上であったとしても)、「主としてプラスチック製」に該当するとの解釈も十分成り立ちうるところであり、このことは本件各記事の掲載および本件質問書の送付後に策定されたJSA規格であるJSA-S1008「無機物を主成分とする無機・有機複合マテリアル」においても同様の見解を前提とする記載がみられることからも裏付けられる。
2)この解釈に本件試験報告書上の数値を当てはめると、本件素材のレジ袋の主要な構成素材はプラスチックであるから、本件素材のレジ袋は「主としてプラスチック製」に該当し、リサイクル委託金を要するとの結論が導かれる。
3)これらに加えて執筆者は、公益財団法人日本容器包装リサイクル協会から、ポリマー量が48%、炭酸カルシウムが40%のレジ袋の場合、残りの成分が無機物であったとしても、プラスチック製の容器包装に該当する旨の見解を得た。同協会は同法についての解釈権限を有しているわけではないものの、もっぱら同法所定の業務を行う公益財団法人であり、同法に関する専門的知見を有していると期待することもやむを得ないところであるし、同協会自身が、自らに司法の解釈権限がないとして回答を拒絶することなく、執筆者の照会に回答していることも合わせて考慮すれば、執筆者が同協会の見解に依拠したこともまたやむを得ないというべきである。
■「リサイクル委託金が必要と信じたのは相当な理由」
4)以上を総合すると、本件執筆者が本件素材の一部のレジ袋について容器包装リサイクル法上のリサイクル委託金が必要であるという事実を信じたことにつき相当な理由があるというべきである。
5)したがって、被告らが本件各記事を掲載し、本件質問書を(TBM社の取引先に)送付したことについて、故意または過失が否定されるから、不法行為を構成しないというべきである。
6)名誉権に基づく出版物の頒布、番組の放送などに対する事前差し止めは、表現行為に対する重大な制約となることから、憲法21条の趣旨に照らし、原則として許されないが、その表現内容が真実でないか、またはもっぱら公益を図る目的のものではないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合には、例外的に事前差し止めが許されるものと解される。
7)本件は、現在ウェブサイトで配信されている本件各記事およびツイッターにより閲覧できる本件投稿の各削除を求めるものであるが、それらの削除は、今後閲覧する可能性のある者に対する関係では事前の差し止めと同様の表現行為に対する重大な制約となり得ることから、上記と同様の要件の下において削除の可否を判断するのが相当である。
8)これを本件についてみると、まず本件各記事の表現内容の真実性については、本件試験報告書のみに依拠しては本件素材の成分のうちプラスチック量が炭酸カルシウム量を上回ると認めることができないことは説示したとおりであるが、本件試験報告書における成分不明な分に石灰石由来の無機物が含まれていること、ひいては真実の炭酸カルシウムの割合が41.1%から最大9.5%高く、ポリマー量を上回る(つまりプラスチック量の割合を上回る)ことについては、あくまでその可能性が排斥されないにすぎず、具体的に裏付けられているわけではない。
9)原告分析についても、本件素材における有機物量の割合が44%ないし46%、炭酸カルシウムの割合が50%ないし53%、その他無機物の割合が2%ないし4%と測定されているものの、本件全証拠によっても、原告分析の採った分析手法において誤差が生じえないことまでは認められず、分析手法および結果の信頼性の点で、本件試験報告書との比較において明らかに優位にあるとは言い難い。
■「本記事や投稿の削除は請求することはできない」
10)そうすると、本件素材の成分のうちプラスチック量が炭酸カルシウム量を上回ることが真実でないことが明白であるとまではいえない。そして、以上を前提として、容器包装を構成する素材のうち質量分率が最大の素材がプラスチックであれば「主としてプラスチック製」に該当するとの解釈も十分成り立ち得ることを踏まえると、本件試験報告書上は本件素材のレジ袋の主要な構成素材はプラスチックであって、本件素材のレジ袋は「主としてプラスチック製」に該当し、リサイクル委託金を要するとの結論を導くことが可能であるから、本件素材を用いた一部のレジ袋について容器包装リサイクル法上のリサイクル委託金が必要であるとの事実が真実でないことが明白であるともいえない。
11)また、一般読者の普通の注意と読み方を基準とすると、本件投稿は、本件素材のレジ袋が容器包装リサイクル法違反となる事実を適示するところ、上記説示によれば、これも真実でないことが明白であるとまではいえない。
12)次に、(中略)本件各記事がもっぱら公益を図る目的でないことが明白とはいえない。また、本件投稿(ツイッター)は、被告会社の代表者であり、オルタナの編集長である被告によって投稿されたものであるところ、その目的が本件各記事の掲載と異にしていたとは認められない以上、これも同様にもっぱら公益を図る目的のものでないことが明白であるとは言えない。
13)原告は、被告らが、本件投稿前の時点で、本件各記事の削除を求める仮処分申立て事件において原告が提出した疎明資料を認識していたこと、原告が原告のウェブサイト上で被告らの主張に対し反論していたことなどを指摘するが、いずれも本件投稿がもっぱら公益を図る目的のものではないことが明白であることを推認するには足りない。
14)したがって、本件各記事および本件投稿の削除は請求することはできないというべきである。
15)よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(主文)
1 原告(株式会社TBM)の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
■東京地裁「オルタナの記事は真実でないとは言えない」
今回の裁判では、いくつかの争点があったが、①プラスチックが最大成分であるとオルタナが信じた点について相当な理由がある旨の判断が下されるとともに、②外部の検査機関の検査結果の不明部分に関する石灰石成分の存在可能性などを理由に次の2点が焦点になった。
1)SPINNSのレジ袋におけるプラスチック量が炭酸カルシウム量を上回る点
2)LIMEXを用いた一部のレジ袋について容リ法のリサイクル委託金の支払いが必要となる点
上記2点について真実であることまでの認定を裁判所は行わなかったものの、真実でない(ことが明白であるとまでは)とはいえない旨の判断が下された。