「TBMは、責任ある企業への脱皮を」:LIMEX裁判を終えて

記事のポイント


  1. オルタナ「LIMEX」記事を巡る訴訟で、TBMの敗訴が確定した
  2. 「この地球上に『無尽蔵』な資源などない」ことを改めて実感する
  3. TBMには、この敗訴を機に「責任ある企業」に脱皮してほしい

石灰石ペーパーの一種「LIMEX」を巡るオルタナの記事について、製造販売元であるTBM社が当社に金銭の支払いや記事の削除を求めていた裁判で、東京地裁はこのほど、原告の請求をすべて棄却する判決を出しました。当社にとっては全面勝訴でしたが、判決を聞いた私に「高揚感」はありませんでした。(オルタナ編集長・森 摂)

2020年2月当時、アパレルブランド「SPINNS」が配布していたレジ袋(LIMEX製品)

この裁判は、「石灰石ペーパーは本当にエコか」「LIMEXが『容リ法ただ乗り』の疑い」などオルタナの一連の報道に対して、2021年4月にTBM社が起こしたものです。東京地裁は2022年9月28日、オルタナ全面勝訴の判決を出しました。TBM社は期日までに控訴せず、判決は確定しました。

それにしても、なぜ私が「高揚感」を感じなかったのでしょうか。それは、この裁判に対しての世の中の関心は総じて低かったことと無関係ではありません。国内の主要メディアで、この裁判を報じたのは「週刊新潮」だけでした。

サステナビリティ(持続可能性)とビジネスをどう両立させていくか、というあまりに大きな命題に対して、日本では真剣で本質的な議論が起こりにくいと感じています。

確かに、胸にSDGs(持続可能な開発目標)のバッジを付ける経営者や行政関係者、議員らは増えました。SDGsの17ゴールを使って、自社の環境・社会活動をアピールする企業も増えました。

■持続可能性と収益の両立は「道半ば」

しかし、こうした企業が、どれだけ真剣に持続可能性に取り組んでいるか。サステナビリティとプロフィタビリティ(収益)を両立できているか。まだまだ、道半ばです。

TBM社は判決当日、「今回の判決で記事の真実性が否定され、法令違反がなかったことが改めて証明されました。当社を支えてくださるステークホルダーの皆様におかれましては、ご安心いただけると幸いです」とのリリースを発表しました。

このリリースを一般消費者や企業ユーザーが真に受けてしまうと、これからも状況は変わらないことを憂慮しています。

■この地球上に「無尽蔵」な資源などない

ここで、改めて、なぜ当社がLIMEXについて批判的な記事を展開したのか、説明します。第一に、現在の同社ホームページには、今でもこんな表記があります。

「石灰石。英語でLimestone。地球上にほぼ無尽蔵にあり、人類が長く見過ごしてきたこの素材が大活躍する。そんな未来が、もう始まっています」

しかし、この地球上に「無尽蔵」な資源などあるのでしょうか。少なくともサステナビリティについて一定の知見がある学者や専門家は、そんな立場はとらないはずです。スウェーデン出身のヨハン・ロックストローム博士らが提唱した概念「プラネタリー・バウンダリー」がその象徴です。

石灰石は、サンゴや貝類が蓄積した「生物起源」と、大気中の二酸化炭素が沈殿した「科学的起源」の2種類があります。いずれも大量の二酸化炭素を含むため、地球上の石灰岩がすべて熱分解したと仮定すれば、気温が300度上昇するといわれています(地球大紀行2;日本放送出版協会, 1987)。

もちろんそんな事態も起こらないでしょうが、地中にある石灰石をわざわざ掘り出して、地上の社会に流通させ、それが仮に燃やされるとすれば、気候変動対策に逆行するのです。

紙の代替をうたうLIMEXは、決して燃やしてはいけないのです。しかし、そのことが消費者や企業ユーザーに浸透しているかは、甚だ心もとないようです。

LIMEXを紙と間違えて、古紙回収ルートに出せば、古紙プラントの設備に機械トラブルや不良品につながる可能性があるとされています。公益財団法人古紙再生促進センターは、石灰石ペーパーを古紙回収ルートに載せてはならない「禁忌品」に指定しています。

LIMEXのホームページには「石灰石は、石油由来プラスチックと比較して、原材料調達段階のCO2排出量を約98%抑えることができます」との記述があります。

しかし、これはあくまで「原材料調達段階」です。温室効果ガス(GHG)算定における、使用時や廃棄時、燃焼時などのCO2排出を無視した表現です。

同じページには次のような記述もあります。

「石灰石はPP(ポリプロピレン)などの石油由来プラスチックと比較して、燃焼時のCO2を約58%排出削減することができます」。

しかし、LIMEXが紙の代替品をうたうなら、比較すべきは木材由来の一般紙でしょう。木材由来であれば、たとえそれが燃やされても、もともと木が吸収したCO2なので、「広義のカーボンニュートラル」に分類できます。

やはり、LIMEXはTBMがうたうような「革新的新素材」ではないと思います。サステナビリティについて15年間、報道を続けてきた当社にとっては、もろ手をあげて賛成できない製品なのです。

■LIMEXの存在を否定しているわけではない

ただし、当社はLIMEXの存在を否定し、世の中から排除しようとまでは考えていません。サステナビリティの観点からみると問題は多いと考えますが、LIMEXを完全に否定する権利は私たちにもありません。

TBM社に対しては、以上の問題点について、真摯な説明と、改善すべきは改善するという「インテグリティ」(誠実さ)を改めて求めます。それが同社にとっての、有意義な「ステークホルダーエンゲージメント」になるはずです。

そしてTBM社が、私たちを含む社会からの要請に応え、「真の責任ある企業」(レスポンシブル・カンパニー)に脱皮していくことを願ってやみません。

「この先50年の地球の繁栄を願うのなら、私たち全員が、今手にしているリソースでできることをすべて行うことが不可欠です。私たちは自然から価値あるものを収奪して富に変換するのではなく、生み出した富をその源を守るために使用します。地球を唯一の株主にするのです。私は真剣です。この地球を守ります」(パタゴニアのイボン・シュイナード創業者)

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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