記事のポイント
- 東京2025世界陸上(2025年9月)で、廃食用油由来のバイオ燃料を使用
- 放送用電源や車両の燃料に使用し、その規模は国内最大の約8万リットルに
- 取り組みを可能にしたスキームと今後の展望を、レボインターナショナルの越川代表に聞いた
2025年9月に開催された東京2025世界陸上は、この大会から生まれる新たな未来として「サステナビリティ」を掲げた。その取り組み一つが、廃食用油由来のバイオ燃料の活用だ。国内イベント最大規模となる約8万リットルを放送用電源や車両の燃料に使用し、通常燃料と比べて約80%のCO2を削減した。この試みは、世界陸上大会初となるABW基準の最高評価(プラチナ)の獲得に大きく貢献した。燃料を供給した(株)レボインターナショナル(京都市)の越川哲也社長に、取り組みを可能にしたスキームと、今後の展望を聞いた。

◾️193ヵ国・地域が参加、約62万人が観戦
単一競技の国際大会としては世界最高峰の1つである「東京2025世界陸上競技選手権大会」は2025年9月13日〜21日、国立競技場(新宿区)を中心に開催した。193ヵ国・地域および難民選手団1992人が、49種目を競い合った。9日間の入場者数は約62万人で、過去に国内で開催された世界陸上最多の動員数を記録した。

気候変動や人権を取り巻く状況が、スポーツに与える影響は小さくない。本大会では「コンパクトで環境に配慮した持続可能な大会の実現」を掲げ、脱炭素、資源循環、ウェルビーイング等の多様な取り組みを実施した。
◾️大会の持続可能性評価で最高評価(プラチナ)を獲得
本大会は、WA(World Athletics)から環境への負荷を限りなく少なくし、社会的価値を最大化したことを高く評価された。こうしたことからWAが定める大会の持続可能性を評価するABW基準で、世界陸上大会としては初となる最高評価(プラチナ)を獲得した。
ABW(Athletics for a Better World Standard)基準とは、WAの持続可能性戦略にで定められた、重点6分野(続可能な生産と消費・多様性など)で評価を行い、総得点の90%以上を満たすと「プラチナ」評価となる。


◾️イベントとバイオ燃料の親和性

ABW基準で高評価を得た要因の一つが、世界陸上初のバイオ燃料の活用だ。放送事業者用の仮設発電機に100%バイオ燃料「C-FUEL」を、練習会場等の仮設発電機や大会関係者を輸送するバスの一部に5%バイオ燃料を含む軽油「CF-5」を使用した。
大会期間を通しての使用量はC-FUELが 約6万リットル、CF-5が約2万リットルの計8万リットルであった。大会運営組織である公益財団法人東京2025世界陸上財団(以下「世界陸上財団」)によると、使用時のCO2排出量を軽油と比較して約160トン(80%)削減し、喘息の原因である黒煙も最大1/6に抑えたという。
放送事業者用の仮設発電機は554kVA4台が稼働し、世界各国のテレビ局等51社・約1,500人による中継放送等を支えた。バイオ燃料の主な使用先である工事現場では大きな発電機でも100kVA程度であり、これだけ大規模な使用例は国内では前例がない。
C-FUELは「第四類・第三石油類」に分類され、ガソリンや軽油よりも引火しにくい。こうした特性から消防法上での制約が相対的に小さいことにより、国立競技場周辺のように設置スペースが限られた環境で仮設発電機を設置する際、よりコンパクトに配置できる点が、大きなメリットとなった。

◾️京都から国立競技場へ燃料を輸送

燃料は、スポンサーシップ契約を締結したレボインターナショナルが京都から輸送した。同社はバイオ燃料に特化した研究開発や製造・販売を行うため1995年に創業。京都工場は1日3万リットルの生産能力があり、今大会への供給能力は問題がなかったという。
越川哲也社長は、世界陸上に参画した意義や経緯をこう語る。
「地元のJリーグチーム『京都サンガF.C.』の試合会場で市民の協力を得て廃食用油の回収を行なった経験があり、スポーツイベントと自社事業に高い親和性を感じている。国際的にも注目度の高い世界陸上は、バイオ燃料の存在をアピールする格好の舞台になると考えた」

◾️転機は阪神大震災、パリ・ダカにも挑戦
越川社長は、元々はレーシングドライバーを目指していた。当時所属していたチームに、分子エネルギー工学を専門とする清水剛夫・京都大学教授(当時)から「廃食用油をディーゼルエンジンの燃料に使えないか」という打診があり、これをきっかけにバイオ燃料の研究開発を始めたという。
1995年1月の阪神・淡路大震災では燃料が不足するなか、大量に余っていた贈答品用の食用油から作ったバイオ燃料を重機に供給。復興支援に関わったことを機に、レボインターナショナルを立ち上げた。
1997年に京都で開催されたCOP3(国際気候変動枠組条約第3回締約国会議)では、京都市との協働でごみ収集車全220台と市バスの一部にバイオ燃料を利用。それから30年近く経った現在も、ごみ収集車と市バスでの利用は続いている。
2007年のパリ・ダカールラリーでは、元F1ドライバーの片山右京氏が監督を務めるチームに100%廃食用油由来のバイオ燃料を供給。同氏のドライブで約1万kmを完走し、過酷な使用条件での実用性を証明した。
◾️「地産地消」のために国内で消費を

越川社長は、レボインターナショナルの独自性をこう語る。
「1社で原料の調達から技術開発、製造、供給、プラントのエンジニアリングまでを行なっているのは、世界的にも珍しい。安定供給と最適なコストでの供給を守るために全てを自社で行わざるを得なかったが、それが結果的に強みになった」
廃食用油は家庭や飲食事業者から回収。当初は関西地区のみだった回収拠点も、北海道から沖縄までの各地に広がった。
サプライチェーンの大部分を自社で賄う体制を構築しつつある現在、越川社長は次のステップとして消費段階にも踏み出したいという。
「自分たちが出した廃棄物を資源として地域内で循環させて、自分たちの事業や物流に活用する。地産地消に移行することで、生活レベルを下げずに幸福に暮らせる地域が実現するモデルを示していきたい。それが資源の少ない日本の国益にもつながるのではないか」
現在は、生産した燃料の約90%を需要の高い欧州へ輸出しているという。バイオ燃料が脱炭素につながるとする最大の根拠は、原料の植物が生育する過程でCO2を吸収することだ。しかし、長距離の輸送が入ればそのメリットが弱まってしまう。
バイオ燃料が真に持続可能な燃料になるカギが「地産地消」にあるのは間違いない。
◾️航空・船舶への普及を見据え原料多様化も

バイオ燃料は、次世代航空燃料であるSAF(Sustainable Aviation Fuel)や、脱炭素を模索する船舶燃料としても注目を集める。こうした需要の拡大を見据えて、レボインターナショナルは廃プラスチックや未利用木質材など原料の多様化も視野に入れている。
その一環として、2008年からベトナムでジャトロファの栽培に取り組んでいる。ジャトロファは中南米が原産の植物で、食用植物の生育に適さない土壌で生育するため、食糧と競合しない原料として期待を集めている。
ベトナムでの栽培には、ベトナム戦争で使用された枯葉剤によって荒廃した土地を緑化・再生する狙いもある。
「これらの原料から燃料を作る技術は実験レベルでは確立できた。次は量産に向けたエンジニアリングに力を入れていきたい」と、越川社長は今後を見据える。
グローバルなスポーツイベントでのさらなる活用や新たな需要の開拓を通して、バイオ燃料はますます社会の注目を集める存在となるだろう。

