記事のポイント
- サステナビリティ・ビジネスで儲けるには、経営の意思と戦略が重要だ
- これまで時間軸に分けた戦略や、スケールする市場を見極める必要性を説明した
- 今回は、マージンの確保と、未来への投資・行動しないことのコストを説明する
儲かるサステナビリティは確実に存在する。しかしサステナビリティ・ビジネスで儲けるには、経営の意思と戦略が重要だ。前回までの2回で、時間軸に分けた戦略や、スケールする市場を見極める必要性を説明した。「サステナビリティ・ビジネスで儲けるための5か条」の最後となる第3回目では、マージンの確保と、未来への投資・行動しないことのコストを説明する。(サステナビリティ・ビジネス戦略家=磯貝友紀)

前回までは、「サステナビリティ・ビジネスで儲けるための5か条」の第1条、第2条を見てきました。
サステナビリティ・ビジネスで儲けるための5か条
第1条: 短期で稼ぎ、中期で市場を取り、長期でビジネスモデルを作る
第2条: スケール――市場を見極める
第3条: マージンを作る
第4条: 未来のコストを下げる技術に投資する
第5条: COI (Cost of Inaction: やらなかった場合にかかるコスト)を考慮する
参考記事:「サステナビジネス戦略5か条」(上)時間軸で戦略を分ける
参考記事:「サステナビジネス戦略5か条」(中)市場を見極める
今回は、その第3条から第5条について説明します。
■第3条:マージンを作る
トップラインを伸ばせる市場を見極めることと同時に、マージンの高い領域を攻めることも重要です。
世界的に見ても、サステナビリティ・ビジネスはハイエンドブランドから始まるケースが多く見られます。初期段階ではどうしてもコストが上がってしまうため、それを吸収できるだけのマージンを持つ領域から始める必要があるからです。
そして重要になるのが、価格を引き上げる力、つまりブランドです。日本企業は全体として、価格をコントロールできるブランドが少ないと言われています。しかしサステナビリティは、この価格コントロール力を取り戻すための有力な手段になり得ます。環境や社会への価値をブランドとして表現し、それを価格に結びつけていくという戦略です。
実際に世界では、サステナビリティをブランド価値として確立した企業も生まれています。
例えば米パタゴニア社は、環境保護を企業理念の中心に据えることで強いブランドを築き、価格プレミアムを維持しています。
また、蘭トニーズ・チョコロンリー社は、児童労働のないサプライチェーンを掲げることでブランド価値を確立し、プレミアム価格でも支持されるチョコレートブランドへと成長しました。サステナビリティをブランドとして表現することで、価格をコントロールできる企業が実際に生まれているのです。
一方で、マージンの低い領域であっても、スケールによって成立させる方法もあります。小さな事業を束ねてスケールメリットを生み出すというアプローチです。
パナソニックの「noiful(ノイフル)」は、その一つの例と言えるでしょう。家電を循環型ビジネスにしようとしても、個別に回収してリサイクルしているだけでは採算が合いません。そこで家電を単品で扱うのではなく、生活に必要な家電を一式としてレンタルする仕組みにすることで、回収や循環の仕組みをビジネスとして成立させています。
こうした取り組みは、単にコスト構造を変えるだけではありません。企業の価値観やビジョンを消費者に伝え、ブランド価値を形成する要素にもなります。
サステナビリティはコストとして語られることが多いテーマですが、見方を変えれば「価格をコントロールできるブランドを作るための武器」にもなり得ます。
サステナビリティをどのようにブランド価値として表現するか。それが、これからの企業にとって重要な経営テーマの一つになるのではないかと思います。
■第4条: 未来のコストを下げる技術に投資する
ここまで、トップラインを伸ばすためには市場を見極めることが重要であること、そして次にコストを吸収できるマージンが高い領域を攻めること、もしくは、マージンを上げる工夫をすることが大切であることを見てきました。
しかし、それだけではサステナビリティ・ビジネスを持続的に成長させることはできません。将来の新しいビジネスモデルにおいても十分なマージンを確保できるよう、コストを下げる技術にしっかり投資していくことが欠かせません。
つまり、サステナビリティ・ビジネスでは、「市場を見極める(トップライン)」「マージンを作る(収益構造)」、「未来のコストを下げる技術に投資する(競争力)」という三つの戦略を同時に進める必要があります。
その好例が、米アップル社の取り組みです。
■アップル社の「Daisy(デイジー)」――15年以上の投資
アップル社が開発している「Daisy(デイジー)」という仕組みをご存知でしょうか。
アップル社は、資源枯渇や環境負荷の問題を踏まえ、「完全循環型のアップル社製品を実現すること」を重要な戦略の一つに掲げています。つまり、一台のiPhoneから、次の一台のiPhoneを作ることができるような循環型の製造モデルを目指しているのです。
その実現に向けてさまざまな取り組みを進めていますが、経済合理性を確保するうえで大きなボトルネックとなるのが、「製品を分解するコスト」です。
iPhoneは非常に精密に作られているため、分解しやすい設計を取り入れても、依然として分解には大きなコストがかかります。
そこでアップル社が15年以上前から投資してきたのが、iPhoneを分解するロボット「デイジー」です。現在は2代目のシステムが稼働しており、資源回収の効率化に向けて継続的な投資が行われています。
もし10年後、15年後に希少資源の供給がさらに逼迫し、製造業が資源調達に苦しむ状況になったとき、アップル社は自社製品から効率的に資源を回収し、低コストで製造を続けることが可能になります。つまり、「事業のサステナビリティそのものを維持できる仕組み」を、いまから構築しているわけです。
したがって、トップラインを伸ばすことだけでなく、新しいビジネスモデルを進める中でボトルネックとなるコスト要因を見極め、その部分に対して粘り強く投資することが重要になります。未来のコスト構造を変える投資こそが、サステナビリティ・ビジネスの競争力を決めるのです。
第5条: COI(やらなかった場合にかかるコスト)を考慮する
市場を見極め、マージンを高め、将来のコストを下げる技術に投資する――ここまでの戦略を進めたうえで、もう一つ忘れてはならない視点があります。それが「COI(Cost of Inaction: コスト・オブ・インアクション、何もしないことのコスト)」です。
これは、ある取り組みを「やらなかった場合に将来発生するコスト」を意味します。
最も分かりやすい例は炭素税です。もし脱炭素への対応を行わなければ、将来、炭素税という形でコストを支払うことになります。これは比較的シンプルに計算できるコストです。
しかし実際には、それだけではありません。今後、さまざまな資源が不足していく可能性があります。
例えば、特定の希少資源について、今のうちに代替技術やリサイクル技術を開発しておかなければ、将来その資源価格が大きく上昇するかもしれません。あるいは、調達自体が困難になる可能性もあります。
つまり、「これをやらなかった場合に、将来どれだけのコストが発生する可能性があるのか」を考えなければ、サステナビリティ投資の適切な判断はできないということです。
そのためには、将来発生する可能性の高いリスクを見極め、そのリスクに対して何もしなかった場合のコスト、すなわちCOI(コスト・オブ・インアクション)を精査することが重要になります。
■サステナ経営は5か条を同時に進める
それは、短期で稼ぎ、中期で市場を取り、長期でビジネスモデルを作る。 そのうえで、スケールする市場を見極め、マージンを確保し、未来のコストを下げる技術に投資し、さらに「何もしないことのコスト(COI)」を計算する。つまり、サステナビリティ経営とは、
- 時間軸で戦略を組み立てる
- スケールする市場を選ぶ
- マージンを作る
- 技術でコスト構造を変える
- 将来のリスクコストを見積もる
という、五つの戦略を同時に進める経営だと言えるでしょう。
サステナビリティ経営は慈善活動ではありません。 企業の競争力を高め、事業の持続性を守り、長期的な繁栄を実現するための、本質的な経営活動です。
サステナビリティほど、面白いビジネスはありません。環境や社会に価値を生み出しながら、同時に経済的価値も生み出す。 これは、私たちの世代に与えられた、非常に刺激的な挑戦です。
ぜひ楽しみながら、そして諦めずに、この挑戦を続けていきましょう。
※この記事は、執筆者のnote「サステナビリティビジネスで儲けるための5か条――実践に向けた具体的指針」(2026年3月15日公開)をオルタナ編集部にて、3回に分ける形で一部編集したものです。執筆者のnoteはこちらからお読みいただけます。


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