記事のポイント
- JFEスチールは26年7月、国内で初めてグリーン水素で還元鉄を試作した
- グリーン水素由来の還元鉄と電炉を組み合わせる技術開発は海外で先行する
- 重要なのは、高炉を使わない製鉄への転換へとつなげることだ
JFEスチールは2026年7月末、再エネ由来のグリーン水素を使い、鉄鉱石から約1トンの還元鉄を製造することに日本で初めて成功した。鉄鋼業の排出量の大部分は、石炭を使って鉄鉱石を還元する高炉法から生じる。石炭の代わりに水素を使う水素直接還元製鉄は、海外でも商業化に向けた取り組みが進んでおり、今回の成果は歓迎すべき前進だ。その還元鉄を、高炉を使わない製鉄への転換につなげられるかが、日本の鉄鋼業の将来を左右する。(スティールウォッチ・石井三紀子)

■日本初の成功、その先に期待される展開
7月31日、JFEスチールは国内で初めてグリーン水素を用いた還元鉄の試作に成功したと発表した。東日本製鉄所(千葉地区)の「直接還元製鉄(DRI法)」小型試験炉で、鉄鉱石を水素還元し、約1トンの還元鉄を製造した。
現在、世界の鉄鋼生産では鉄鉱石から酸素を取り除くための還元材や燃料として石炭を使用する「高炉法」が主流で、鉄鋼業が多くのCO2を排出する大きな要因となっている。一方、DRI法では水素などを還元材として利用でき、大幅な排出削減が可能となる。特にグリーン水素と電炉を組み合わせれば、化石燃料に依存しない製鉄への転換につながる可能性がある(図1)。今回のJFEの成果は、こうした技術の国内での実用化に向けた重要な一歩と言える。

日本では国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援のもと、日本製鉄やJFEが「低品位鉄鉱石を用いた水素直接還元製鉄」の研究開発を進めてきた。現在のDRI法では一般的に高品位の鉄鉱石が必要とされることが、普及に向けた課題の一つとなっている。低品位鉱石を利用できるようになれば、原料の選択肢を広げることができる。
JFEは2024年12月から同試験炉を運転し、低品位ペレットを用いた水素100%で連続的な還元鉄製造にも成功したと公表している。ただし、今回の約1トンのグリーン水素による試験で使用した鉄鉱石の品位は公表されていない。
■抜本的な排出削減に必要なのは「石炭高炉を使わない製鉄」への転換
グリーン水素由来の還元鉄を電炉で溶解し、再エネ電力と組み合わせることで、生産プロセス全体の排出量を大幅に削減できる。JFEは西日本製鉄所(倉敷地区)に大型革新電炉を2028年度に稼働する計画を進めており、こうした電炉での還元鉄の活用が期待される。
一方、JFEは還元鉄を既存高炉でも活用する方針で、2028年度をめどに東日本製鉄所(千葉地区)の第6高炉で連続投入を始め、石炭使用量を減らす。還元鉄の投入によって短期的な排出削減効果が期待できるかもしれない。しかし、高炉は構造上、炉内の熱源や鉄鉱石の還元などに石炭を必要とするため、還元鉄の部分投入だけで石炭への依存を解消するには至らない(図2)。
最終的な目標は還元鉄を「高炉の部分的な排出削減」に使うことではなく、抜本的な排出削減を実現する「石炭高炉を使わない製鉄」への転換につなげることだ。

■海外では、直接還元製鉄の商業化の動きが活発化
海外では、グリーン水素を使った還元鉄が、すでに実験段階を越え始めている。先行するのは、再エネ電力が豊富な地域でグリーン水素と還元鉄を生産し、その還元鉄を電炉で鋼材にするモデルだ。
スウェーデンのHYBRIT(ハイブリット)は、同国の鉄鋼メーカーSSAB、鉄鉱石会社LKAB、電力会社バッテンフォール(Vattenfall)による共同事業である。
2020年にパイロット設備を稼働し、2021年には化石燃料を使わない還元鉄を用いた鉄鋼生産を実現した。その後、5000トンを超える還元鉄を製造。HYBRITが検証したのは水素直接還元だけではなく、還元鉄を電炉で溶解し、粗鋼にするまでの一連の工程である。400回を超える電炉試験で、1000トン以上の鋼を製造している。
同じスウェーデン北部のボーデンでは、ステグラ(Stegra)がグリーン水素、直接還元製鉄、電炉を一体化した商業規模の製鉄所を建設している。初期の鋼材生産能力は年間250万トンで、2030年までに年間500万トンへの拡張を計画する。2026年4月には37基の電解装置の設置が完了するなど、商業化に向けた取り組みが進む。
こうした海外の取り組みと比べれば、今回のJFEによる約1トンの試作はまだ初期段階にある。一方で、単純な規模の比較だけでは捉えられない条件の違いもある。スウェーデン北部は水力や風力などの安価な再エネに恵まれており、グリーン水素由来の直接還元鉄を生産する上で大きな競争優位性を持つ。
そこで注目されているのが、再エネやグリーン水素に恵まれた地域で還元鉄を製造し、鉄鋼需要地へ輸送する「グリーンアイアン貿易」だ。JFEもUAEのエムスチール(EMSTEEL)、伊藤忠商事、ブラジルのCSNミネラソン(CSN Mineração)と、年間約250万トンの還元鉄を生産する事業を検討している。

海外の先駆的な事例で特徴的なのは、グリーン水素由来の還元鉄を、石炭高炉を維持するための原料としてではなく、電炉と組み合わせた新たな生産プロセスの中核として位置付けていることだ。
還元鉄を高炉の石炭使用量削減に使うのか、高炉から電炉への転換につなげるのかでは、長期的な脱炭素化における意味合いが大きく異なる。
■日本の鉄鋼メーカーに期待される「国内外で一貫した脱炭素戦略」
では、日本の鉄鋼メーカーは高炉の将来性どのように位置付けようとしているのか。
JFEは国内では高炉を減らし、電炉を増やす方向性を打ち出す一方で、成長市場であるインドにおいて、大規模な生産能力拡張に踏み出している。国内で高炉廃止を進めながら、海外では生産能力を拡大する。この二つの動きを、グループ全体の脱炭素戦略の中でどのように整合させるのかが問われる。
こうした課題はJFEだけのものではない。国内最大手の日本製鉄も国内では高炉削減と電炉への投資を進める一方、インドや米国では高炉への大型投資を続けている。
気候変動に国境はない。特に鉄鋼需要の増加が見込まれるインドで、新たな需要を石炭高炉で満たすのか、低排出技術へ移行するのかは、将来の排出量を大きく左右する。
■還元鉄の技術開発は歓迎すべき脱炭素の「出発点」
JFEスチールによるグリーン水素を用いた還元鉄の試作は、日本の鉄鋼業にとって歓迎すべき成果である。今回の成果を、今後の技術開発や実用化へとつなげていくことが期待される。
同時に、その脱炭素効果を最大限に引き出すには、還元鉄の技術開発だけでなく、石炭高炉への依存を減らしていくことも欠かせない。
国内では電炉への転換を掲げながら、海外では高炉生産能力を拡張するという矛盾を解消できるか。国内鉄鋼メーカーに問われているのは技術力だけではなく、グローバル企業として事業全体を脱炭素へ向ける意思と一貫性である。



