ボルネオで学んだ未来を変える選択——サラヤ海外スタディツアー

「世界の衛生・環境・健康の向上に貢献する」を企業理念に掲げ、ビジネスを通じた社会課題の解決に取り組むサラヤ(大阪市)。同社は今夏、次世代を担う学生8人とともに、パーム油の生産地・ボルネオ島を視察した。森林破壊や生物多様性の損失が深刻化するなか、「自分ごと」として捉え、一人ひとりが未来を変える選択につなげてもらうことを目指す。

上空から捉えたアブラヤシ農園。この裏側では今なお開発が進む

■大規模農園が一面に広がる

ヘリコプターで上空から見ると、幾何学模様を描く木々が地平線まで果てしなく広がっている。すべてアブラヤシのプランテーションだ。自然の森とは対照的に、木々は等間隔に整然と並ぶ。

ここは、ボルネオ島北部に位置するサバ州。州都コタキナバルに次ぐ第二の商業都市、サンダカンを訪れた。

車で移動している最中も、道路の両脇にはどこまでもアブラヤシが続き、さらに新たな農園が開拓されている現場も複数あった。パーム油の需要拡大に伴い、アブラヤシの農園開発も急速に広がっていることが分かる。

キナバタンガン川をボートで進むと、テングザルやサイチョウといった野生生物の姿があった。さらにしばらく進むと、水浴びをする野生のボルネオゾウの姿を捉えた。ゾウはゆっくりと水から上がり、川岸に生えるネピアグラスなどの植物を食べ始めた。

キナバタンガン川で水浴びや採食をする野生のボルネオゾウ

自然の中で野生動物の営みを間近に目撃する経験は、同行した学生たちにとって新鮮なものだった。感動のあまり、涙ぐむ学生の姿もあった。

大阪公立大学に通う西口友理さんは、「クルーズで野生のボルネオゾウを見た時、深く感動し、自然や動物を守りたいという思いが強くなった。環境について本気で研究したいと思える、大きな原体験になった」と目を輝かせる。

「小学生の頃に読んだ絵本で、ボルネオの環境問題や絶滅の危機にある動物たちが、自分たちの暮らしとつながっていることを知った。それ以来、いつか現地を訪れてみたいと思っていた」

そう語る上智大学の石崎彩花さんは、環境保護サークルに所属し、ビーチクリーンなどに取り組んでいる。

東京音楽大学の玉置えりささんは、「家族が愛用しているサラヤの商品が環境に良いと聞き、実際にどのような取り組みをしているのか、自分の目で確かめたくてスタディツアーに参加した」と語る。

絶滅危惧種に指定されている野生のオランウータン

■ボルネオの危機、学生も自分事化

サラヤは2026年8月、NPO法人 The Peace Front (ザ・ピース・フロント、東京・ 渋谷)の協力のもと、ボルネオでスタディツアーを実施した。参加したのは、全国から集まった学生8人だ。

ザ・ピース・フロントは、社会課題の解決や国際協力をキャリアにしたい学生をサポートし、コミュニティ運営や海外スタディツアーなどを実施している。

今回のスタディツアーでは、キナバタンガン川でのクルーズやヘリコプターによる上空視察のほか、アブラヤシのプランテーションや搾油工場、ボルネオゾウの保護施設(BES)、セピロック・オランウータン・リハビリテーション・センターなどを訪問。ボルネオの自然環境やパーム油の生産現場、野生生物の保全活動について学んだ。

クルーズ船上から真剣な表情で野生生物を見つめる学生たち

サラヤの廣岡竜也・広報宣伝統括部統括部長は、「学生の皆さんは、未来の消費者であり、社会を変えていく存在だ。ボルネオの問題を知ったことで、今後どんな行動が起きるのか楽しみ」と期待する。

ザ・ピース・フロントの新谷和実代表は、「社会課題に強い思いを持つ学生が集まった。現場を見て議論し、それぞれの考えを掛け合わせ、社会を変える力につなげてほしい」と話す。

スタディツアーに参加した学生8 人と新谷和実代表

■支援広がるも目標は達成途上

ボルネオは、マレーシアとインドネシア、ブルネイの3カ国に属する世界で3番目に大きい島だ。「生物多様性の宝庫」として知られるが、この50年ほどで、その姿は一変した。1960年代から木材調達のために大規模な伐採が行われ、80年代に入ると、パーム油生産のためにアブラヤシの農園開発が進んだ。

その結果、ボルネオの熱帯林は2015年には約3分の1にまで減少。棲む場所を失ったボルネオゾウやオランウータンなどの野生動物が絶滅の危機に瀕している。

アブラヤシから採れるパーム油は、インスタント麺やスナック菓子などの加工食品をはじめ、石けん・洗剤やシャンプー、化粧品など、日常生活で使う製品に使われている。

パーム油は世界で最も多く消費される植物油脂で、植物油の総生産・消費量の約3分の1を占める。その理由は、圧倒的に高い生産効率にある。他の主要な植物油に比べ、1ヘクタールあたりの年間生産量はおよそ5倍も高い。

世界の供給量の約9割は、マレーシアとインドネシアが占めている。人口増加による食品産業の拡大やバイオ燃料需要の増加によって、パーム油の需要は50年までに現在のおよそ2倍にあたる1億5000万トンに達する見込みだ。

見渡す限り一面に広がるアブラヤシ農園

一方で、プランテーション開発による森林破壊、泥炭地開発によるCO2排出、人権問題などの課題も長年指摘されてきた。国際社会やNGOによる監視は年々強まっており、パーム油産業は今まさに「転換点」にある。

こうしたなか、サラヤはボルネオの環境を守り、野生生物を救出するため、06年にマレーシア・サバ州野生生物局と協力し、国際NGO「ボルネオ保全トラスト(BCT)」を立ち上げた。

08年からは、プランテーション開発によって分断された森林をつなぎ直し、野生動物の移動路を確保する「緑の回廊プロジェクト」をBCTとともに行ってきた。

キナバタンガン川沿岸の土地を買い戻して森へと再生するこの取り組みでは、BCTが取得した土地の命名権を支援した団体に与える仕組みがあり、これまでに「サラヤの森」は13カ所にまで広がった。

サラヤの活動当初からボルネオの環境保全プロジェクトを担当する中西宣夫調査員は、「現地との対話や社内外との連携を続けてきた。ボルネオに関心を持ち、今回の学生のように、日本からツアーに参加してくれる人も増えた」と手応えを語る。

一方で、「『緑の回廊プロジェクト』は、目標である川岸のすべての土地買い上げに対して、10%程度にとどまっている。戦争や貧困、気候変動など、世界中で課題が頻発するなか、ボルネオの環境問題が置き去りにされ、保全活動への資金や関心が薄れてしまうのではないか」と危機感を募らせる。

近年ではサラヤにとどまらず、カルビーや米国のアウトドアブランド「ハンティングワールド」などの企業にも参画や支援の輪が広がっている。しかし、土地の買収や環境再生には膨大な費用と時間がかかるのが実情だ。

■地道な取り組みが社内外を変える

業界に先駆けてパーム油の問題に取り組むサラヤにとって、大きな転機となったのが04年だった。当時、あるテレビ番組の取材を受け、洗剤原料の一つであるパーム油について「生産地のボルネオで森林破壊が進んでいる」という指摘を受けた。

同社はすぐに現地に中西調査員を派遣し、森林破壊が進み、野生生物の生息地が失われている実態を把握した。

その後、05年には日本に籍を置く企業として初めてRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟し、持続可能なパーム油の使用と普及を開始した。07年には、ヤシノミ洗剤の売り上げの1%をボルネオの環境保全活動に寄付する取り組みも開始。

廣岡統括部長は、「20年前は社内外ともに壁があった。『ボルネオでの活動が売り上げにつながるのか』『単に環境に良いというだけでは商品は売れない』といった厳しい声も多かった。それでも、役員視察や勉強会を重ね、現地の実態を知る社員が少しずつ増えた。やがて、環境関連の賞を受賞するなど社外からの評価が高まるにつれ、社内の理解も深まっていった」と振り返った。

こうした地道な取り組みにより、活動や商品のコンセプトに共感する消費者も増えた。活動開始から順調にヤシノミシリーズの売り上げは伸びている。

■現地で広がる持続可能な生産

スタディツアーでは、サバ州政府系のアブラヤシ農園企業「サウィット・キナバル」を訪問した。同社では、農園の労働者向けに住居や診療所、ラーニングセンター、託児所などを整備している。さらに、18歳未満の雇用禁止など人権方針を掲げ、農園内にも森林を残すことで生物多様性の保全にも取り組む。

「20年前は、農園側も外部の視察者に対して実態を隠そうとする姿勢が強かった。しかし、現在では農園の意識や労働・自然環境が少しずつ改善され、先進的な取り組みを積極的に発信する変化が見られるようになった」(中西調査員)

ボルネオの保全活動を担当するサラヤの中西宣夫調査員

一方でパーム油生産を支えるのはこうした大規模農園ばかりではなく、生産者全体の約4割は小規模農家が占める。資金やノウハウの不足から、小規模農家では認証取得が進みにくいのが現状だ。

サラヤの取り組みは、自社での認証植物油の使用にとどまらない。現在は、こうした小規模農家の認証取得支援や森林保全などを通じて、持続可能なパーム油の生産・流通の拡大を後押ししている。

30年にわたり現地で野生生物のガイドをするゲイリー・アルバートさんは、「パーム油産業がなければ、この国や州は貧困に苦しむ。パーム油が州の税収源だからこそ、政府は環境保全や教育に資金を回せる。『パーム油=悪』として産業を排除するのではなく、農園企業に保全を支援してもらうなど、共存の道を探ることが重要だ」と語る。

パーム油の原料となるアブラヤシの果房

■現地へ足運び次世代に発信

スタディツアーに参加した東京音楽大学の玉置さんは、「音楽の世界にいると環境問題に触れる機会がなかったが、現地に行き、誰もが当事者として考えるべき課題だと実感した。今回得た気づきを原動力に、身近な人と一緒に考えるきっかけを作りたい」と思いを語る。

大阪大学の小原賢慎さんは、「国内にも課題が多い中で海外への支援に疑問もあった。しかし現地で学び、海外と日本の社会課題に共通点があると気づいた」と振り返る。

アブラヤシ農園で収穫作業を体験する学生。一果房 20㌔前後もあり重労働だ

中西調査員は、「コロナ禍以降、現地を訪れる観光客が減少している。ボルネオの問題を知るためには、まずはより多くの人に現地へ足を運んでほしい。現地の住民にとっても、自然や野生生物を守ることが地域経済の支えになるという理解が広がりつつある。保全と経済を両立させるエコツーリズムも盛り上げていきたい」と意気込む。

「ボルネオは社会の縮図だと感じる。産業と環境の両立、人権問題など課題は複雑で、私たちが明確な正解を持っているわけではない。だからこそ、現地へ足を運び、『こうした方が良いのでは』と思うことに、粘り強く取り組んできた。今後も次世代への発信を続けたい。共に議論し、活動できる仲間を増やしていきたい」(廣岡統括部長)

【コラム】ボルネオゾウが安心して暮らせる未来へ

■フードコリドープロジェクト 

アブラヤシ農園の拡大やインフラ整備により森林が分断され、絶滅危惧種であるボルネオゾウの移動経路が失われつつある。その結果、ゾウが人の生活圏に入り込み、農作物を荒らすなどの課題が出てきた。

「フードコリドープロジェクト」では、ゾウが好むネピアグラスなどの植物を川沿いに計画的に植え、移動ルートの確保と食料の供給を同時に行う。サラヤはこのプロジェクトの支援を続けている。

■野生動物の救出プロジェクト

ボルネオ保全トラスト(BCT)は2012年、生息地を奪われたボルネオゾウを保護する施設「ボルネオ・エレファント・サンクチュアリ(BES)」を立ち上げた。資金面では、ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BCTJ)をはじめ、北海道・旭川市や旭山動物園、サラヤ、大成建設などが支援してきた。

一方で、現場の運営には課題が多い。本来はゾウ1頭につき2人のスタッフが必要とされるが、現在は9頭に対して8人にとどまっている。加えて、水や電気など基本インフラの不足にも悩まされている。

廣岡統括部長は、「最終的なゴールは、施設に収容されるゾウがいなくなること。多くの企業や団体と連携しながら、支援していきたい」と語る。

ボルネオ・エレファント・サンクチュアリ

(PR)サラヤ

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード: #オルタナ86号

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。