東大・江守教授に聞く(1)国連「最も楽観的なシナリオでも1.8℃上がる」

記事のポイント


  1. 国連環境計画(UNEP)は9月2日、「数年以内に1.5℃を超える」可能性を示唆した
  2. UNEPの報告書は、最も楽観的なシナリオでも1.8℃上昇だと予測する
  3. 今回のUNEP報告書をどう受け止めるべきか、東大・江守教授に話を聞いた

国連環境計画(UNEP)は2026年9月2日、報告書「Limiting Overshoot(オーバーシュートを抑える)」を公開し、世界の平均気温の上昇幅が、今後数年以内に産業革命前から1.5℃を超える可能性が高いとまとめた。最も楽観的なシナリオでも、気温上昇は一時1.8℃に達するとし、再び1.5℃未満に戻すためにGHG(温室効果ガス)の排出削減を急ぐよう求めた。この報告書を受けて、東京大学未来ビジョン研究センターの江守正多教授に話を聞いた。(聞き手=オルタナ輪番編集長・北村佳代子、オルタナ副編集長・京正裕之)

江守 正多(えもり・せいた)
東京大学未来ビジョン研究センター教授
1970年神奈川県生まれ。1997年に東京大学大学院総合文化研究科博士課程にて博士号(学術)を取得後、国立環境研究所に勤務。同研究所気候変動リスク評価研究室長、地球システム領域副領域長等を経て、2022年より現職。東京大学大学院総合文化研究科で学生指導も行う。専門は気候科学。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次および第6次評価報告書主執筆者、第7次評価報告書査読編集者。

■オーバーシュートを可能な限り「低く」「短く」

――国連環境報告(UNEP)の最新報告書を、どのように受け止めましたか。

国連がこの報告書を出すにあたっての国連内部での議論は私にはわかりませんが、COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)などでは、1.5℃を超えることは避けられないという発言や、そうした報道はずいぶん出てきていました。

私自身もこのままでは1.5℃はもう到達すると言ってきましたし、それを前提に「オーバーシュート(気温上昇幅が産業革命前から一時的に1.5℃を超えること)」についての議論もかなり活発になされていますが、以前から申し上げてきたように、オーバーシュートしてから平均気温を下げるというのは、言うほど簡単なことではありません。

参考記事:東大・江守教授「0.1℃の上昇で数千万人の生活が破壊される」

UNEPの報告書が、従来の「努力次第では1.5℃以内にとどまれる」という認識を修正することを目的としているのかどうかはわかりませんが、「1.5℃」をあきらめないこと、オーバーシュートを0.1℃でも低く、そして可能な限り短くとどめることがとても重要です。

■「2℃はガードレール(安全圏内)ではない」

――2015年のパリ協定では、「2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力」が約束され、その後、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の「1.5℃特別報告書」を受けて、それまでの「2℃目標」から「1.5℃」を目指すこととなりました。UNEP報告書は、最も楽観的なシナリオとして「ピーク時で1.8℃の上昇幅」としています。「1.5℃」と「2℃」との狭間をどのように受け止めるべきでしょうか。

「1.5℃」がどのような数字だったかを振り返ると、2015年のパリ協定採択前は、関係者としては、「2℃以内にとどめる」目標に合意できれば御の字だと思っていたと想像します。しかし、それに対して、小島しょ国や後発途上国など、気候危機に脆弱な国々が「自分たちは2℃では耐えられない。もっと低い水準を目指すと言ってほしい」と強く主張しました。

そしてその主張を、EUなどの国々や野心連合が同調・サポートしたことで、最終的に「1.5℃」という数値が、努力目標として入ることになりました。ここに至るまでの過程の中で、私が印象的だと感じた議論があります。

それはパリのCOPに至る過程で複数回開かれたストラクチャード・エキスパート・ダイアローグ(SED)と呼ばれる公式会議での議論で、その報告書を見ると、「2℃はガードレール(安全圏内)ではない。ディフェンスライン(最終防衛ライン)だ」とあるのです。

「2℃を超えると危険で、2℃より内側なら安全と言っているわけではない」という議論がなされていた。「危険はすでに始まっていて、平均気温が0.1℃上がるごとに大きくなっていく。2℃というのは本当に超えてはいけないラインで、できればもっと手前で温暖化を止めた方が絶対に良い」という認識が共有されたのです。

パリ協定で1.5℃が努力目標として入りましたが、1.5℃と2℃とでは、どれぐらい違うのか、科学的にはっきりしない。そこで、IPCCに報告書をまとめてほしいとの要請があり、IPCCから出されたのが「1.5℃特別報告書」(2018年)です。

実は私は、IPCCは「1.5℃の達成ができるなら、そうした方が良いけれど、ほとんど無理だ」という内容の報告書を出すのではないかと思っていました。しかし、出てきた内容は、「1.5℃の達成はとても難しい。けれど、社会が良くなる機会になるのだから目指すべき」との内容でした。もちろんIPCCの報告書は「~すべき」という書き方をする性格のものではありませんが、そう言っているように読める報告書が出てきたんですね。

2℃と1.5℃とでは、全然リスクが違う。1.5℃は実現可能だし、そこを目指せば社会的にもいろいろと良いことがある。そういう内容の「1.5℃特別報告書」を受けて、2021年、英グラスゴーでのCOP26で「1.5℃を目指す決意をしよう」となり、今に至っています。

■日本を含む多排出国は「深く悔恨すべき」

こうした経緯を踏まえると、ひとつ大事なのは、1.5℃目標が、ほとんど温室効果ガスを排出せず気候変動の原因にほとんど責任がない気候危機に脆弱な国々の声だった、ということです。そして、1.5℃で温暖化を止める、という決意は、彼らを見捨てないという国際社会の決意の表れでした。私はそう解釈しています。

そして今、1.5℃を超えてしまうことを我々が受け入れざるを得ないということは、残念ながら国際社会はそうした脆弱な人たちを救えなかったことを受け入れざるを得ないということに等しいのです。

世界の平均気温の上昇幅が1.5℃を超えて、日本を含む先進国に住んでいる誰もが破滅的な被害に直面するわけではないかもしれません。でも、地球上のどこかでは破滅的な被害が起きることになる。それを本当は止めたかったのだけれど、止められなかった。

ネパールの土石流のような出来事が、これからますます増えていくのを、一つひとつ受け入れていかざるを得ない。1.5℃を超えるということは、そういう構造的な人権侵害が起きてしまうということを意味している、と捉えています。

日本を含む先進国は、深く悔恨しなければいけません。

■「ローカルなティッピングは起きている」

――2026年も世界各地での酷暑、記録的な暑さが観測され、国内では千葉をはじめ各地で豪雨による被害が相次いでいます。また8月26日にネパールで発生した土石流は、衝撃的な映像とともに広く報道され、人々の気候変動に対する関心も以前より高まっているように感じます。これまで科学者らは、1.5℃を超えると「ティッピングポイント(不可逆な変化が始まる限界点)」を超える危険性が高まると警鐘を鳴らしてきました。私たちは今、かなりティッピングポイントを超えつつあるところにいるのでしょうか。

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北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #気候変動#脱炭素

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