記事のポイント
- 国連は10月21日、最新の「排出ギャップレポート」を公開した
- 一時的に1.5℃を超過しても、1.5℃以内に戻る道筋は残っているとまとめる
- そのためには、今後4年間で排出量を18%削減する必要がある
国連環境計画(UNEP)は2026年10月21日、最新の「排出ギャップレポート2026」を公開した。産業革命前と比べた気温上昇について、報告書は、1.5℃以内に抑える機会はすでに失われたと結論づけた。しかし、一時的に1.5℃を超過しても1.5℃以内に戻るための道筋は残されており、そのためには今後4年間で排出量を18%削減する必要があると強調する。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

(ODI Globalの動画配信から)
UNEPの「排出ギャップレポート」とは、パリ協定で掲げた気温目標達成に必要な排出水準との隔たりを評価する年次報告書だ。「The Point of Return(引き返し地点)」と題した最新レポートでは、気温上昇を、産業革命前から1.5℃を超えることなく抑えるための機会は失われたとしたが、一時的に1.5℃を超えても、その後、1.5℃以内へと戻していく道筋はまだ残されていることを強調した。
1.5℃を超えてしまうことを気候科学の文脈では「オーバーシュート」と呼ぶ。なおUNEPは2026年9月に公開した別の報告書「Limiting Overshoot(オーバーシュートを抑える)」で、世界が本格的な1.5℃超過の時代に入ったことを公表している。
記録的な猛暑や極端な気象がこれまで以上に頻繁かつ深刻な形で発生する可能性は残るものの、今世紀末までに1.5℃以下に戻すためには、オーバーシュートの規模(1.5℃を最大何℃超過するか)と期間を最小化することが、壊滅的な状況を少しでも防ぐことにつながる。
■「可能な限り最小のオーバーシュートを伴う1.5℃シナリオ」とは
報告書は、新たに「可能な限り最小のオーバーシュートを伴う1.5℃シナリオ」として、今世紀半ば頃のピーク温暖化を約50%の確率で1.7~1.8℃に抑え、2100年までに世界の気温上昇を1.5℃以下に戻す排出経路を提示した。
そしてこの達成には、世界のGHG排出量を、2025年に比べて、2030年に18%、2035年に45%、そして2040年に69%削減する必要があるとまとめた。なお、この経路は大気中からの大規模な二酸化炭素除去(CDR)を前提とする。
これに対し、各国政府が現在の排出削減目標を完全に実施したとしても、排出量は2025年比で2030年に5~8%、2035年に11~15%にとどまるとしている。
■「いかにして、できるだけ早く1.5℃未満の状態に戻るか」
国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長は、「各国政府は何年も前から時間がなくなりつつあると警告されてきた。各国が最大限の努力をすれば、(1.5℃未満に抑える)チャンスはまだあると以前は言っていたが、そうした努力が行われてこなかったことが明らかになった。先延ばしにした結果、今となっては、チャンスは失われたと言っているのだ」とコメントした。
「私たちは、1.5℃目標を超過した状態をできる限り短く抑えることはできる。諦めて投げ出す時ではない。これは、いかにして、できるだけ早く1.5℃未満の状態に戻るかという問題なのだ」(アンダーセン事務局長)
世界的な科学・政策研究所クライメート・アナリティクスのビル・ヘアCEOは、「重要なポイントは単純明快だ。各国政府は、化石燃料の使用を削減する政策をできるだけ早く実施する必要がある」とコメントした。
「どの政府にも果たすべき役割があるが、米国やサウジアラビアなど、世界の化石燃料生産量の20~25%を占める主要な化石燃料生産国は、政治的な駆け引きをやめ、科学的な現実と向き合うべき時だ。彼らは今、火事の存在を否定し、さらにその火に油を注いでいる。その一方で、自国民はますます猛暑や山火事、その他の被害に直面している」(ヘアCEO)
「1.5℃を0.1℃超過するたび、オーバーシュートの期間が1年増えるたびに、気候変動の影響とリスクは増大する。最近の研究によると、温暖化が0.1℃進むごとに、1億4000万人が危険な暑さにさらされる。グリーンランドの氷床は、今まさに不可逆的な崩壊の危機に瀕している。世界の政府や化石燃料生産者は、7メートルの海面上昇と、多くの島国が消滅することを、本当に自らのレガシーとして残ることを望んでいるのか」(同)
■「野心度も削減策の実施も、明らかに足りていない」
「排出ギャップレポート」の執筆に関わった東京大学未来ビジョン研究センターの倉持壮特任教授は、報告書の注目点と日本に関する評価について、同大学の「HICARI」プロジェクトのサイトにブログで見解をまとめた。
倉持特任教授は、「(各国の排出削減に向けた)野心度も削減策の実施も、いずれも明らかに足りていない」と言い切る。そして、現行の政策が続くシナリオでは2.8℃の気温上昇、各国の削減目標が完全に実施された場合のシナリオでも2.6℃の温暖化の見通しについて、「あくまで今世紀末時点の数字であり、その後も気温上昇が続く見込みであることを忘れてはならない」と警鐘を鳴らす。
米トランプ政権のパリ協定からの脱退や、昨今の不安定な地政学的状況下において、「今こそ、日本にとっては、再エネ導入拡大や最終エネルギー消費の電化による石油からの脱却を通じて、GHG排出削減とエネルギー安全保障を同時に強化する好機」だとして言い切った。



