大地の恵みを未来につなぐ――キリンビール仙台工場

「地域の絆を大切に、しっかりと地域に根差した工場になっていきたいと思っています」と語る仙台工場長の横田乃里也さん

「環境も、キリンビールの品質」―おいしいビールを常に顧客に届けるためには、健全な大地に育まれた「良質な原料」が持続的に収穫され、それがビールづくりに生かされることが大切だ。

地球や、地域の環境や社会が安定してこそ、優れたビール造りができるのだ。そのためにも、「地域との絆」をキリンは大切にしている。

◆ビールとともに元気を届ける

「工場の復旧は、私たちが未だかつて経験したことのない仕事でした。この工場を何とかしたいという社員一人ひとりの思いは大変強いものがあり、決してその思いを失うことはありませんでした」

「この復旧プロセスで、私たちは以前よりも強いチームになりました。その力を使って、しっかりとビールを造って東北の皆さまにお届けしたい。ビールだけではなく、元気も届けたい。地域との絆を大切に、しっかりと地域に根差した工場になっていきたい」

2011年11月2日。キリンビール仙台工場(仙台市宮城野区)の横田乃里也工場長は、力を込めて全従業員に呼び掛けた。

この日は、同工場が生産する「一番搾り とれたてホップ生ビール」の初出荷式だった。初出荷とは、東日本大震災からの復旧以降で初、という意味だ。

キリンビールの仙台工場は仙台港に近いため、津波による大きな被害を受けた。屋外にある巨大なビールタンク15本のうち4本が倒れ、パッケージング設備や倉庫の一部も浸水した。

だが、奇跡的に、ビール造りの心臓部といえる「醸造設備」には大きな被害はなかった。 多くの企業が被災地からの撤退を視野に入れた中で、キリンビールの松沢幸一社長(当時)は2011年4月7日、仙台工場の操業再開に取り組むことを発表した。

東京ドームが7つ入るという広大な敷地で、横田工場長以下、電気や水もままならないなか、手作業での清掃や設備の補修を開始した。

◆原料と鮮度にこだわる

津波により倒壊した東北工場のビールタンク

実は、国内で生産されるホップの99%は東北産だ。ビールの原料にこだわるキリンビールは、この東北産ホップの74%を購入している。

中でも岩手県遠野市は、ホップの生産面積が日本一と言われている(平成22年「ホップに関する資料」全国ホップ農業協同組合連合会)。 ホップは高さ数メートルに育つ蔓性の植物で、ビールの原料になるのは毬花だ。

一般的には乾燥させてから使用されるが、遠野のホップの一部は水分を含んだ生の状態で凍結される。それを使用した「一番搾り とれたてホップ生ビール」は、旬の香りがするフルーティな味わいとなる。

「生で出せるのは、鮮度が良い遠野のホップだけ」と生産農家の菊池光彦さんは嬉しそうに話す。キリンの「一番搾り とれたてホップ生ビール」は、遠野の生産農家にとっても大きな誇りだったという。

しかし東日本大震災は、東北地方全域に甚大な被害を与えた。 遠野市は内陸部にあるため壊滅的な被害はなかったが、電気は丸2日間止まり、携帯電話も1週間ぐらい通じなかったという。

2011年4月、仙台工場は再開に向けて動き出したが、今年は「一番搾り とれたてホップ生ビール」を作れるのだろうか。仙台工場の社員も、生産農家も、新たな不安に襲われた。

◆伝えたかった感謝の思い

「『一番搾り とれたてホップ生ビール』は東北地方の象徴的な商品。復興への励みになればという願いがありました」と横田工場長は振り返る。 「もう一度ビールを提供するんだという使命感と、東北の方々にご恩返しがしたいという思い。そして同じ困難をともに乗り越えようという地域との絆が、私たちの背中を押したのです」

自らも被災しながら工場の復旧に挑んだ人々の思いが結集し、「一番搾り とれたてホップ生ビール」は、被災して8カ月後に、出荷を迎えることができたのだ。

この初出荷式の前夜、横田工場長は遠野のホップ農家や、ビールの缶・段ボールの製造に携わった人たちを、工場内のレストランに招いた。

缶やダンボールの工場も被災したが、ビールの出荷に合わせて懸命に工場を稼働させてくれた。横田工場長は、この日まだ店頭に並んでいない「一番搾り とれたてホップ生ビール」を皆さんに味わってもらいたいと考えたのだ。

仙台工場復旧のために一緒に闘ってくれた人たちに、「ありがとう」を伝えたい――。生産農家と工場を結ぶ、「新たな強い絆」が生まれた夜だった。

さらに3カ月後の2012年2月15日、東日本大震災で被災した仙台工場で、びんビールの製造ラインの操業が再開された。

すべての生産ラインが復活したことを記念し、びんの肩部分に「元気!東北 仙台工場謹製」と書かれた「キリン一番搾り生ビール」と「キリンラガービール」の大びんと中びんが東北6県と新潟県に、数量限定で出荷された。

収穫時期を迎えた遠野のホップ畑

◆持続できてこその品質

「いつまでもお客様においしいビールをお届けし、豊かなひとときを楽しんでいただきたい――。これが、キリンビールが環境活動に取り組む原点です」と語るのは、キリンビールCSR推進部の栗原邦夫部長だ。 「おいしいビール造りには、大地の恵みである『良質な原料』の安定確保が必要です。そのためには、つねに栽培に好適な気候が欠かせないのです」

キリンビールは生物資源の持続的利用と保全、気候安定化のための地球温暖化防止などに意欲的に取り組んでいる。工場のCO2排出量でも2011年実績で1990年比約65 %削減を達成することができた。

そうした努力の結果である「良質な原料」を調達し、品質にこだわった商品を提供している。 キリンのモノづくりは、「大地の恵みを未来につなぐ」ことによって成り立っている。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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