すなわち、各国の文化・慣習などを踏まえた理解を通して、法令の経済社会の中での位置づけを知るなど、経済社会の本質を理解することが重要だ。そうすればCSRやコンプライアンスの定義や位置づけの議論自体に気が付くだろう。
日本に欠けているのは、物事の本質をとらえ、自らに置き換え、独自の解決策を考えていくリベラルアーツに根ざす思考力である。リベラルアーツとは、古典との対話を通して考えることを教え学ぶ思考力をいう。
明治以来、「西欧諸国に追いつけ追い越せ」のスローガンのもと、知識偏重・西欧の物真似に主眼を置いた受け身の教育を根本的に見直し、リベラルアーツに根ざした自ら解決策を導くことのできる付加価値力をもった人材の育成が急務の課題となっている。
とりわけ、常識的なことや単純なことほど、本質を読み取り、論理的に考察・説明することは難しい。
社会の価値観が大きく変化する環境下では画一的な知識を共有するのではなく、手間をかけて考える力をつけていく人材育成方法を考えることの方が、本質的な問題解決につながるとともに、結果として効率的に効果を発揮できる。
こうした付加価値力をもった人材の育成こそが、CSR経営の第一歩である。
本連載では、過去十数年間にわたるCSR活動について、経済社会の本質をとらえながら検証することを通して、これからのCSRのあり方や、CSR 活動を経営の中へ組み込み、企業価値の向上を実現するための具体的な方策について提言をしていきたい。
あわせて、東日本震災における復旧・復興において企業やNPOが果たした役割を評価しながら、今後各ステークホルダーがどのような役割を果たしていくべきなのかという視点についても見つめ直したい。
企業が持続的成長をはかり、安心して次世代に繋げていくためには何をすべきなのか模索していくことができればと考える。
【おおくぼ・かずたか】新日本有限責任監査法人シニアパートナー(公認会計士)。新日本サステナビリティ株式会社常務取締役。慶応義塾大学法学部卒業。教員の資質向上・教育制度あり方検討会議委員(長野県)。大阪府特別参与。京丹後市専門委員(政策企画委員)。福澤諭吉記念文明塾アドバイザー(慶應義塾大学)。公的研究費の適正な管理・監査に関する有識者会議委員。京都大学・早稲田大学等の非常勤講師。公共サービス改革分科会委員(内閣府)ほか。
(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第1号(2012年10月5日発行)」から転載しました)
CSRについての最新情報は毎月発行のCSR担当者向けのニュースレター「CSRmonthly」でお読みいただけます。詳しくはこちら